2025年7月17日
障害の有無にかかわらずおしゃれを楽しめる展示販売会「インクルーシブファッションPOPUP」が髙島屋横浜店(横浜高島屋、横浜市西区)で開かれた。「ひとりの困りごとをみんなの価値に」をテーマに、一般社団法人NiCHI(ニチ、東京都千代田区)が主催。運営メンバー3人のブランドをはじめ全国から7団体8ブランドが集結した。初日にはトークショーを行い、当事者目線でファッションの可能性について語り合った。
インクルーシブファッションとは、高齢者や妊婦、身体障害者、性的少数者など、これまで取りこぼされてきた声に耳を傾け、一緒に考えて形にするデザインの手法。個人の困り事をヒントに、多くの人が使いやすく安心できるサービスを生み出す。
展示販売会は4月23~29日に開催。会場の入り口に設けられたショーウインドーには、ピンクのドレスを着た車いすに座るトルソーと、ベレー帽と品のあるニットに合わせた立ち姿のトルソーが美しく輝いていた。

一歩足を踏み入れると華やかな若い女性たちの声が響き、素材や色の美しさ、デザインにこだわった衣類や帽子、靴が並んでいた。
23日のトークショーには、「世界一明るい視覚障がい者」として知られる成澤俊輔さん、シンガーソングライターで社会活動家の小澤綾子さん、そして一般社団法人NiCHIの共同代表理事、布施田祥子さんが登壇した。
以前から面識のある同士だったが、対談は初めてだったという。それぞれがファッションに対する率直な意見や思いを共有した。
トークショーは冒頭から、金髪にカラフルなニット姿の成澤さんが中心となり、会場を盛り上げた。

成澤さんは全盲でありながら、会社経営や講演会など多方面で活躍している。表情からだけでは目が見えないとは分かりにくいが、外出時には白杖(はくじょう)を持って移動している。
周囲からは「目が見えないのになぜ金髪なのか」とよく聞かれるそうだが、「見えないからこそ派手な服装や髪型にし、周囲から話しかけてもらうきっかけ作りにしている」という。
また、「色が見えないのに、なぜ髪を染める必要があるのか」という思い込みを多くの人が持っていることに気付いてほしい、とも語った。

2024年9月には念願だったパリでのファッションショーのランウェーを歩いた。ある講演会で衣装提供を受けたブランドがパリコレに参加することを知り、「自分も出たい」と夢を語り続け、チャンスをつかんだ。
「僕の感覚は、ただ白杖を持って歩いているだけ。でも、多くの人が自分を見て喜んでくれたことが幸せだった。次の夢は映画監督になって、カンヌ映画祭に出ること」とエネルギッシュに話していた。
一方の小澤さんは、進行性の難病・筋ジストロフィーを抱えながら、音楽活動や社会活動に取り組んでいる。
日頃からファッションへの関心が高く、明るい服装を選ぶようにしている。小澤さん自身が患者ではなく、「おしゃれですてきな人」として声をかけてもらえるよう、装いを意識していると話した。
「車いすに乗っているだけで、周りから『かわいそうに』と言われることもあった。でも普段からおしゃれだったら、対等の気持ちを持ってもらえると思って」
今回の展示会場では販売・接客のアルバイトに挑戦。高島屋のロゴが入った名札を着け、新鮮な気持ちで対応していたという。

「接客の仕事には興味があったが、日常生活で車いすの店員を見ることはない」と指摘する一方、「最近は遠隔操作のロボットを通じて店員をしている人もいる。テクノロジーが進んでおり、自分もやってみたい仕事に挑戦できるかもしれない」と、希望をにじませた。
司会を担当した布施田さんは、販売・接客に興味のある障害者が働ける機会を増やすサポートができれば、と考えている。長年ファッション業界に携わってきた経験から、生かせるスキルがあると感じているという。
実は今回のイベントもそのきっかけの一つにしたいと、小澤さんらに声をかけていた。

脳内出血で倒れ、左半身まひになった布施田さんは、リハビリ中に病院で用意された機能性重視のリハビリシューズを見て「カッコ悪い」と気落ちした過去がある。
そんな経験から「自分が履きたい靴を作ろう」と一念発起し、シューズブランド「Mana’olana」(マナオラナ)を立ち上げて商品を開発した。
「これからは大手ブランドと、マナオラナの商品を組み合わせて、新しい価値を生み出せたらと思っている。早くかなえたい」と明るく話していた。
互いの思いを伝え合い、終始笑顔の絶えないトークショーとなった。来場者の中には白杖を持つ人、車いすの人、付き添う介助者の姿が見られ、穏やかな雰囲気に包まれながら無事終了した。
好きな服を着る自由は、誰にでもある。デザインに込められたストーリーや当事者の視点、そしてこのように語り合う場が、インクルーシブファッションを発展させるのかもしれない。