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演劇「もがれた翼」外国にルーツ持つ子の葛藤描く

2025年12月6日

 東京弁護士会が主催する子どもの人権を巡る演劇「もがれた翼」。1994(平成6)年に日本が「子どもの権利条約」を批准したのを機に、同会所属の弁護士たちが子役とともに舞台をつくり上げてきた。29作目となる今作のテーマは「外国にルーツを持つ子ども」。近年、日本に在留する外国にルーツを持つ子どもたちは、さまざまな課題を抱えている。周囲は悩みや葛藤をどう受け止めるべきなのか。舞台を鑑賞した。(飯塚まりな)

出自を隠してゲーム

 もがれた翼パート29「スクウェアルーツ」は8月9、10の両日、東京都豊島区の「あうるすぽっと」で上演された。出演者は19人で、4人の子役を除くと全員が弁護士だ。プロの演出家から指導を受け、約1カ月の稽古を行った。

画像1アイキャッチ兼用 もがれた翼パート29「スクウェアルーツ」の出演者たち
もがれた翼パート29「スクウェアルーツ」の出演者たち

 主人公は2人。アフリカ系米国人の父親と日本人の母親を持つアンと、5歳の時にアジア系の両親と来日したソラ。どちらも母子家庭で育つ高校生という設定だ。

 2人は全世界にプレイヤーを持つオンラインゲームで出会い、アバター(分身)を通して意気投合する。

 「私はアン、日本人なの」「私はソラ、よろしく」と互いのルーツを隠してゲームを楽しむが、やがて2人は現実の困難に直面する。

ルーツが自分を傷つける

 平穏な日常は続かない。アンは吹奏楽部で活躍していたが、母親が突如亡くなり1人になってしまう。絶縁状態の親戚と対面するが、引き取り手がなく、自立援助ホーム=用語解説=に入所する。

 ソラは日本語が話せない母親とアパート暮らしで、経済的に困窮する。父親と離婚した母子は不法滞在として見なされ、住まいを失う。知り合いを頼り、認知症の高齢男性の家に居候するが、「おまえたち外国人など知らん」「国へ帰れ」と暴言を吐かれ、精神的に追い詰められる。

 救いとなったのは、高齢男性を担当する訪問看護師との出会いだった。ソラは不安な気持ちを訪問看護師に話したことで、やがて弁護士に相談するよう導かれる。在留資格や母の強制送還という制度の壁が立ちはだかり、ソラは母親を守ろうと必死になる。「親子で平凡に暮らすことが、どれだけ難しいことなのか」を痛感する場面が続く。

居場所だったはずが

 2人の環境が変化する中、オンラインゲームにも闇があった。アバター同士の課金や、大人にだまされて個人情報を開示してしまう危うさが描かれる。「居場所」だったはずのゲームが脅威に変わっていく。

画像2 アンとソラはアバターを通じて、すぐにゲーム内で打ち解け合う
アンとソラはアバターを通じて、すぐにゲーム内で打ち解け合う

 2年後、2人は初めて対面する。「あんなにゲームを居場所だと思っていたのに、何だかはかないね」と、アンはつぶやく。

 アンは留学を決意し、ソラはプログラミングを学ぶ専門学校へ進学する。ソラの母親は結局、強制送還されてしまったため、自分は就職しないと日本で暮らせないという深刻な問題が付きまとう。

 どんなに悩んでも、自分のルーツは変わらない。偏見や差別にあっても、自分にできることをやり、出会った人を大切にして生きていこうと2人は決意して、笑顔で別れる。

支援の必要性に関心を持ってほしい

 現実社会でも似たようなことが起きている。

 アンを演じた柏倉キーサレイラ弁護士も、アフリカ・マリ出身の父親を持つ。日本で生まれ育ち、差別や偏見を感じた経験を、舞台上でリアルに表現した。今回は子どもにスポットを当てたが、大人になってからも続く問題である。

画像3:アン役の柏倉キーサレイラ弁護士による情熱的な演技
アン役の柏倉キーサレイラ弁護士による情熱的な演技

 今回が4回目の出演となった松原拓郎弁護士は「作品は、実際の出来事に基づいたフィクション。演じる難しさはありますが、だからこそ本質をつかまえやすくなる」と語る。作品のメッセージが観客に伝わるよう、心を込めて演じたという。

 現実社会には、助けを求める子どもが後を絶たない。弁護士としての日頃の活動でも、児童相談所や自立援助ホームで外国にルーツを持つ子どもとの接点がある。

 「弁護士としても一人の人間としても、無力であると自覚した上で、一人一人の子どもと誠実に向き合うことを常に考えています」と話す松原弁護士の言葉には、現場に立つ法律家としての重みがある。

画像4:認知症の男性の世話をする場面を通じて、ヤングケアラーの問題も描いた
認知症の男性の世話をする場面を通じて、ヤングケアラーの問題も描いた

 もがれた翼には、時代に即した子どもの課題を身近に感じてほしいという願いが込められている。松原弁護士は「外国にルーツを持つ子どもたちへの支援の必要性に、関心が寄せられてきたと感じる」と語った。

【用語解説】自立援助ホーム

 家庭で暮らせない原則15~20歳の若者が、働きながら共同生活を送り、自立を目指す施設。虐待や貧困などの背景を持つ入居者が多く、生活支援や就労支援を受けながら、安心できる環境で社会生活の準備を進める。児童福祉法に基づいており、全国に380カ所以上(2025年9月1日現在)ある。

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