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インスタフォロワー9.2万人 驚異のグループホーム

2023年3月14日

 ある介護施設の画像共有アプリ「インスタグラム」が話題を呼んでいる。グループホームエフビー新戒(埼玉県深谷市)のショート動画で、入居者同士が座って会話しているシーンが「癒やされる」と大人気なのだという。更新されれば「名言キター!」とコメントが入り、「入居者さんにミカンを贈りたい」と電話がかかってくるほど、固定ファンが応援してくれる施設になった。なぜ、そこまで利用者の魅力を引き出し、心引かれる動画を撮れるのか。日頃の様子を施設長の金井久実さん(38)に尋ねた。

金井さん(左)と入居者
金井さん(左)と入居者

 グループホームエフビー新戒は、「安心・役割・笑い」をモットーに運営されている。

 介護職歴13年目の金井さんは、別の介護現場から転職してきた。前の職場では利用者とゆっくり話す暇がなく、業務に追われて毎日が精いっぱい、それが当たり前だと思っていたという。

 しかし、グループホームエフビー新戒は違った。入職初日から、「これって仕事場なの?!」と思うほど、穏やかな空気が施設全体に広がり、入居者の昼食時間にはスタッフも同じ席で食事を取っていた。お互いに冗談を言いながら、笑い合って食事をする光景を目の当たりにして、驚いたという。

 スタッフには、食事時間とは別に休憩時間があることも衝撃的だった。「私も一緒の席で食事をしていましたが、途中でやりかけの仕事を思い出して、席を立とうとしたことがあったんですね。当時の施設長には『それは後でやればいいから!』って注意されました」と、金井さんは入職したばかりの頃を振り返る。

 食事の時間には、目の前の入居者とコミュニケーションを取り、楽しく過ごす時間を優先する。前任の施設長は、隣に座って顔を見ながら、お茶を飲んだり、ごはんを食べたりしながら、同じ時間と空間を共有することを重視していた。

認知症の人には、ファンタジーな世界観があるという
認知症の人には、ファンタジーな世界観があるという

 「グループホームには、認知症の方しか入居できません。だからこそ、単なる日々のお世話を淡々とこなすのではなく、支え合って日々楽しく暮らしていこうと思います。当時の施設長にも『雰囲気の良い施設なら、認知症の進行も遅い』と言われていたんですよね」

 残念ながら現在はコロナ禍で、入居者との食事はできなくなったが、いずれまた再開できればと思っている。

スタッフも知らなかった入居者の会話

 2021年6月、施設の様子やレクリエーションなどを発信するインスタグラムを始めた。最近では会員制交流サイト(SNS)で頻繁に発信する介護施設も多く見られるが、23年3月6日現在で約9万2千人というフォロワー数には、発信している当の金井さんですら度肝を抜かれている。

 インスタグラムを始めた目的は、入居者の募集だった。「施設のことを知っていただき、地域の方々に入居を決める際のきっかけになれれば」と行動した。当初は写真だけを投稿していたが、そのうち入居者の会話に注目した動画をアップすることにした。

 入居者の座る席にタブレット端末を置き、10〜20分ほど撮影する。周囲では普通にスタッフが動き回り、業務を行っている。適当な時間、録画をしているだけで、編集するまでは入居者が実際何を話しているのかは分からないのだという。

動画については「特に狙って撮っているわけではない」
動画については「特に狙って撮っているわけではない」

 編集は、仕事の合間に金井さんが行う。「動画を見ていると、普段私たちが知らないところでこんなことを話しているんだ、と気付かされますね」。入居者の新たな一面を知る機会になっている。

 あるショート動画では「悲しいときはどうしたらいいのか」と、入居者の男女に質問。男性が「うんと泣いてください。涙が出なくなるまで泣くの。理想的な心境になれるから」と親身に話している隣で、女性は新聞を広げながら「私は悲しいときなんてないもん!」と口を開けて笑っている。

 単純に2人の掛け合いが面白いだけではなく、日本が貧しかった時代を生き抜き、長年の人生経験に基づく思いの詰まった言葉が、癒やしと説得力を与えている。

 金井さんも動画の最後に「今日も2人からたくさんのことを学びました」とテロップに入れていた。見ているフォロワーも同じ思いを感じているのだろう。コメントや「いいね」の数が後を絶たない。

ひょうきんなことも積極的にやる金井さん
ひょうきんなことも積極的にやる金井さん

 動画の人気は、金井さんの心配りとポイントを押さえた編集によるところも大きい。「決して、高齢の方の発言を取り上げてばかにしたり、ふざけたりしているわけではありません。誤解のないように気をつけて制作をしています」

 宣伝と入居者獲得につなげることが当初の目的だったが、今や9.2万人のフォロワーを楽しませ、心をつかんでいる。インスタグラムを見て応募してきた介護職が採用された例もあるという。

 認知症の高齢者と話す機会は、家族や介護職でないと少ないだろう。でもSNSを通じてなら、認知症になったからといって「全てができなくなるわけではない」ことや「その人らしさは消えない」ことが分かる。グループホームエフビー新戒のインスタグラムは、私たちに自然とそのことを教えてくれている。

※画像の掲載は入居者・家族から許可を得ています。

 

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