2024年7月1日 | 2024年10月2日更新
福祉仏教for believeではおなじみの音楽ユニット「たか&ゆうき」の記事第9弾。2019年に筋萎縮性側索硬化症(ALS)=用語解説=と診断された「たか」こと古内孝行さん(43)と、介護福祉士の「ゆうき」こと石川祐輝さん(41)が、埼玉県所沢市で開催された「世界自閉症啓発デー・発達障害啓発週間Light it up blue Tokorozawa 2024」のライトアップイベントに、今年もアーティストとして参加した。
今年で2回目の出演となるたか&ゆうき。イベントは3月31日に所沢市の航空公園駅前広場で行われ、当日はたくさんの観客であふれていた。
2007年の国連総会で、毎年4月2日を「世界自閉症啓発デー」とすることが決議された。全世界で自閉症への理解を深める取り組みが、さまざまな形で行われている。
日本では自閉症だけでなく、発達障害についても広く啓発するため、4月2〜8日を「発達障害啓発週間」と定め、各地でイベントを開催。所沢市では、航空公園駅前広場の壁泉と呼ばれるオブジェへのプロジェクションマッピングや、飛行機YS-11のブルーライトアップが注目され、所沢市民を中心に大勢の人たちが見物に来る。
今年のテーマは「Yes,And…」。込められた意味は、こうだ。
「まず受け入れる。そして、提案する。この精神を広げて、生きづらさをなくしたり、安心感のある心地よい世界を目指したい」
たか&ゆうきも同じ思いでステージに臨んだ。たかさんは難病を発症してから、心身の困難と格闘し続けているが、自分なりに受け入れ、昔から好きだった曲づくりを提案している。ゆうきさんもたかさんの状態を受け止め、これからも音楽を続けていけるよう模索し、いろいろな提案をし続けてきた。まさに今の2人にぴったりのテーマだ。
当日は青空が広がり、日中は汗ばむくらいの陽気だった。ステージの周りにはキッチンカーや屋台が並び、コースター作りなどのワークショップも開催されていた。
「ブルーデコレーション」と題された、青色や水色の手作りろうそくの火がともされ、優しく揺れていた。日が傾くにつれて幻想的なムードになり、気分が高まった。
たか&ゆうきはトップバッターとして、午後4時から出演した。
たかさんは前日まで体調が思わしくなかったが、なんとか持ちこたえたという。本番前からにこやかな表情で観客の前に姿を見せた。ゆうきさんはギターのチューニングに余念がない。2人とも、気分が乗っている様子だった。
「みなさん、こんにちは! たか&ゆうきです!」勢いのあるあいさつとともに、1曲目が始まった。
観客席はほぼ満員で、老若男女が集っていた。前列には小学生の女の子たちが座り、曲に合わせて楽しそうにリズムを取っていた。スマートフォンやカメラで熱心に撮影する人や、「たか」「ゆうき」と書いたうちわを作って応援するファンも現れ、2人の人気ぶりがうかがえた。
昨年、たかさんが「頼まれてないけど、妻に提案してもらって勝手に作ってみた」と話していたイベントのテーマソング『Light it up Blue』は、なんと今年から他の出演者や観客と合わせて歌うことになり、2部に分かれて演奏していた。
最後は「スティールパン」というドラム缶で作られた打楽器を演奏するグループ「とこPA N」のメンバーたちも加わり、2人のバックで美しい音色を奏でた。
40分ほどのステージで、全部で6曲を披露。2人は最後まで歌い切り、生き生きとした表情を浮かべていた。
出演後に、ステージ裏でゆうきさんが「子どもたちから手紙をもらった。うれしい!」と、小学生からのファンレターを読んでいた。
たかさんは「みんなでやりきれたと思うイベントでした。啓発運動の意味を考えながら、みなさんの顔を見て歌えたことが感動的でした」と、達成感を口にした。
今回は2人と共にタンバリン担当の安居浩二さんとキーボードの小高祐美さんがメンバーとして出演。一緒に会場を盛り上げた。
安居さんは「僕自身も統合失調症で、以前音楽イベントでゆうきさんと知り合い、縁があって参加させてもらいました。自閉気味の自分を打破したいと思って、今回の出演はとても大きな一歩になりました」と話した。
小高さんは自閉症の息子を育てるシングルマザーだ。音楽療法士を生業とし、SNSで積極的に発信している。「たか&ゆうきは私にとっても素敵なアーティスト。2人を見ていると、まるで家族のようです。リハーサルで会う時は音楽への熱意で、心のエンジンが温まっているのが伝わります」と語り、「私たち親子も、地域のいろんな方たちと触れ合って生きていきたいですね」と前を向いた。
今年は新たな音楽仲間とつながり、気持ちよく歌い切った。穏やかで心地よいメロディーと親しみの持てる歌詞に、応援したいと思うファンが確実に増えている。
ご当地アイドルのような輝きを放ち、たか&ゆうきは次のステージを目指して、新たな曲づくりに挑むという。
【用語解説】筋萎縮性側索硬化症(ALS)
全身の筋肉が衰える病気。神経だけが障害を受け、体が徐々に動かなくなる一方、感覚や視力・聴力などは保たれる。公益財団法人難病医学研究財団が運営する難病情報センターによると、年間の新規患者数は人口10万人当たり約1~2.5人。進行を遅らせる薬はあるが、治療法は見つかっていない。