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インタビュー

橋渡しインタビュー

新しい音楽活動の拠点を見つけて たか&ゆうき

2023年11月1日 | 2024年10月2日更新

 福祉仏教 for believeの人気コンテンツ、音楽ユニット「たか&ゆうき」の記事第7弾。夏の終わりに2人は小さなスタジオでステージに立ち、配信ライブ「限りある時間の中でvol.1」を行った。筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者の「たか」こと古内孝行さん(43)は6月に肺炎で入院。一時は気管切開が必要と宣告されたが、現在は自宅療養を続けている。容体が見通せない中、介護福祉士の「ゆうき」こと石川祐輝さん(41)はある目標を立て、ライブのできる環境を整えていた。

体調が万全でなくても歌いたい

 たかさんと歌える会場を探していたゆうきさんは今年5月、音楽スタジオ「Studioものがたり TOKYO」(東京都東久留米市)を見つけた。医療関連企業が開設したと知り、たか&ゆうきの音楽活動を話すと、オーナーが快く協力してくれることになった。2人は良心的な対応に感謝し、ライブの計画を立てていた。

久しぶりのステージで気持ちよく歌っていた
久しぶりのステージで気持ちよく歌っていた

 6月になって、たかさんの容体が急変。入院によって、ライブの話はいったん止まった。退院後、徐々に音楽活動を再開する中で、たかさんは自身が作詞・作曲した「限りある時間の中で」の意味を改めて痛感していた。

 「退院後は体感が戻らず、車に乗って座るまでも大変でした。声がガラついて歌いにくく、高音やロングブレスは難しい。今は徐々に声が元に戻ってきて、今だからこそできるライブをやってみたいです」

 ただでさえ、体力が低下し体調面が万全でないのにもかかわらず、「一刻も早く歌を歌いたい」という気持ちだけで、ライブを行ったのだ。

「ことのは」を披露

 8月27日。たかさんの体調が万全でないため、今回は配信で行った。20人ほどが入るスタジオには、家族や関係者だけが集まった。

 今までのイベントで披露していた、たかさんの作詞・作曲「瞳の彼方へ」は今回、選曲から外した。妻や子どもを思う代表作だが、キーが高く、体への負担を考えると最後まで歌いきれないと判断した。

 ゆうきさんは、ライブ中にたかさんの首や足などの位置を調整。途中、ステージ上で休憩する場面もあり、その間はピアニストによる生演奏が流れて、静かな時間を過ごした。

撮影準備もゆうきさんが全て行った
撮影準備もゆうきさんが全て行った

 中盤でゆうきさんが作詞・作曲した「ことのは」を披露。父母を思って作ったという。友人の結婚式でも歌ったこの曲に、たかさんの声がハモった。大事な家族に向けた感謝の歌が、配信を通じて観客に届けられた。

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 「ことのは」

 いつもと変わらない いつもの朝

 いつも通りだけど いつからだろう

 あなたに起こしてもらわなくても

 ひとりで起きられるようになったのは

 せかされるように 身支度をして すれ違う 言葉少なげな日々

 いつの間に ひとりで生きてきたような顔した 大人になったんだろう

 今 思い出す 暖かい陽だまりのような
 愛に包まれ 育まれ 抱きしめられて

 わたしはあなたのところに産まれてよかった

 歩き始めたわたしの手を取り

 歩く事の喜び 教えてくれた

 あなたは今日もわたしの歩む姿を見守ってくれる

 今 振り返る 戻らない 懐かしい日々

 愛に守られ 励まされ 支えられて

 今 伝えたい 届けたい 恥ずかしいけど 心からの言葉を贈るよ

 ありがとう 今まで ありがとう

 これからもずっと
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 優しい歌声と美しいピアノの音色がスタジオにこだまし、その場の空気が温かく明るいものになった。

 無事に7曲を歌い終わり、安堵(あんど)した表情で2人の配信ライブは終わった。

 たかさんの妻、一美さんは「今日のライブは今までで一番良かった」とたかさんを褒めてくれたそうだ。いつもそばで支え、介護と育児をこなす妻からのうれしい言葉だった。

あうんの呼吸で歌い続ける「たか&ゆうき」
あうんの呼吸で歌い続ける「たか&ゆうき」

 昨年9月に所沢市民文化センターミューズ(埼玉県所沢市)という大舞台でコンサートを開き、大勢の観客を前に何曲も歌った2人。わずか1年間だが、たか&ゆうきはさまざまな場面で精いっぱい活動してきた。

 気管切開か、緩和ケアかの選択が迫る中、1日でも長く現状を維持していきたいと願っている。

 たかさんは、こんな残酷な現実を目の前にしても、取材時はいつも変わらず穏やかに話す。

 「今はまだ声が出なくなる自分を想像できないです。病院で人工呼吸器を付ける話をされたとき、抵抗したい、あらがいたいと思う自分がいました。でも、とうとう声が出なくなってきた時には、意思を変えると思います」

僕たちのホームができた

 次回は11月10日、同じスタジオで開催を予定している。オーナーの計らいにより、スタジオ側で主催してもらうことが決まった。

 ゆうきさんは、今後の活動にふさわしい拠点ができたと喜んでいた。

 「僕たちのホームができたので、うれしい。今まで動画はデイサービスの一室で撮影していたけど、今後はスタジオでできるかもしれません。もう次のライブも決めたので、目標に向かっていくだけ。常に『次』だけを見つめていきます」

たかさんの家族とゆうきさん
たかさんの家族とゆうきさん

 1日でも長く一緒に歌えるよう、常に先だけを見つめているたか&ゆうき。結成当初と比べ、バックアップしてもらえる環境や仲間など、2人が手にしているものは確実に大きい。

 最後に「来年1年が勝負になりそう」とたかさんがつぶやいた。健常者が意気込みで「来年が勝負」と言うのとは、わけが違う。まだまだ歌を通して、やりたいことや伝えたいことがたくさんある。

 たかさんの根底にあるのは、若い頃から聞いていた歌手中村あゆみの「It’s All right」の歌詞「明日は明日、なんとかなるさ」。曲から勇気をもらい、ハスキーボイスにも憧れを持った若い頃を思い出し、今も歌詞に支えられている。

 同じ時代を生きて病気で苦しんでいる人、悩んでいる人へ、音楽を通して互いに励まし支え合って、生きていきたい。そんな強い思いを乗せて、次のライブのための新曲作りに励んでいる。

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