2024年2月4日 | 2024年10月2日更新
福祉仏教for believeでおなじみの音楽ユニット「たか&ゆうき」は、2024年も2人で音楽活動を続けていくと前向きだ。筋萎縮性側索硬化症(ALS)=用語解説=患者の「たか」こと古内孝行さん(43)は昨年、風邪の悪化から肺炎になり入院した。一時は気管切開を迫られたが退院し、現在は体調を気遣いながら家族と暮らす。介護福祉士の「ゆうき」こと石川祐輝さん(41)との音楽活動にも復帰した。今回は、たかさんが日頃どのような介護を受けているのかなど、普段の生活について尋ねた。(飯塚まりな)
たかさんは週3日、妻一美さんとゆうきさんが働くデイサービスに入浴のため通所している。それ以外はどう過ごしているのだろうか。
「訪問看護と訪問リハビリの方が来て、その間は妻が外に出ています。僕が一人で過ごせるのは大体2時間くらい。昼間はテーブルとiPad をセッティングしてもらっています」と、たかさんは話す。
手が動かないため、iPadの操作はペンシルに割り箸を取り付けた上で、口にくわえて画面に触れている。
たかさんが使うiPadとスマートフォンには、音声コントロールという機能がある。設定すると、一つ一つのアプリに番号が振られる。起動させたいアプリの番号さえ口で伝えれば、画面が瞬時に表れる。スクロールも自由自在だ。
「文章も打てるし、音声操作で何でもできます。この機能は他のALS患者の座談会で聞いて知りました。患者同士の情報交換がとても役に立ちますね」
飲み物は、ストローを2本つなげて、口元にうまく届くようにして飲む。これは職員さんに教わった知恵。少しの工夫で生活がしやすくなることを知ったそうだ。
気になるのはトイレ。自宅やデイサービスでは介助されてトイレに行くが、一人の時間が長くなりそうなときや外出先で介助が難しい場合は、ベッドで横になった状態や座ったままでも可能な尿器を使用し対応しているという。
ゆうきさんが行うベッドでの介助法を見せてもらった。
ベッドの横に車椅子を付け、互いに向き合い、できるだけ体を密着させ、たかさんがゆうきさんに覆いかぶさるようにしてしっかり抱きかかえる。ゆうきさんは介助中にふらつかないよう、たかさんの膝に手を置き、動きを止める。たかさんのあごをゆうきさんの肩に引っ掛けるようにして、体を固定する。
たかさんが力を全く入れられないため、ゆうきさんの体への負担は大きい。腰を痛めないよう、ゆうきさんは背中をまっすぐ伸ばし、曲げないように意識しながらお尻を動かして、車椅子からベッド上にたかさんの体をスライドさせる。
「手がだらん、と下がってしまうので、ベッドの柵などにぶつけないよう注意しています。なるべく小さく体をまとめるようにするのがポイントです」と、ゆうきさんは手際良く介助していた。
レベルの高い介助法のため、慣れない介護士には丁寧な練習が必要。妻一美さんもゆうきさんに教わりながら、自宅での介助を覚えたという。
たかさんの指はほとんど動かなくなっており、爪が高齢者のように巻き爪になってしまっている。立ち上がる際には、自分の手で皮膚を傷つけてしまうアクシデントもあったそうだ。
たか&ゆうきに2024年に挑戦したいことを尋ねると、たかさんは「遠出がしたい」とのこと。同じ当事者でいつも励まし合う仲間やファンの住んでいる地域へ行き、歌を歌いたいと語った。
そのためには自ら家を出て、電車に乗って出かけなくてはならない。
「同じALSの患者が中心になっている音楽イベントに参加したいんです。会場が名古屋だけど、どうにかして関わらせてもらいたい」とも。情報を収集し、アクションを起こそうとしている。
いっときより声の調子も戻りつつあり、気持ちだけは誰にも負けていない。
一方、ゆうきさんは単独での活動や、絵本の読み聞かせをする人たちとのセッションなど、都内での大きなイベントを控えている。
また、介護士と音楽活動を両立させるためにジムに通い、出社前に体を鍛えるなど新しいルーティンを始めたそうだ。
「隣で聞いていても、ゆうきの声は今が一番いいと思います。いろんな場所で歌っているから、脂が乗っている感じ。そばで応援します」と、たかさんは背中を押す。
2人の活動を知って、ファンは着実に増えてきている。特にゆうきさんの楽曲「いろえんぴつ」は、ファンになった人ならすぐに口ずさめるほど、多くの人の心に届いている。
年末の配信ライブでは、ファンも一緒に歌い出すサプライズもあったそうだ。
今年も一緒に歌えるチャンスをたくさんつかめるよう、互いに寄り添っていく。好きな音楽で、笑顔の絶えない穏やかな世界を、たか&ゆうきはつくり続けている。
【用語解説】筋萎縮性側索硬化症(ALS)
全身の筋肉が衰える病気。神経だけが障害を受け、体が徐々に動かなくなる一方、感覚や視力・聴力などは保たれる。公益財団法人難病医学研究財団が運営する難病情報センターによると、年間の新規患者数は人口10万人当たり約1~2.5人。進行を遅らせる薬はあるが、治療法は見つかっていない。