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インタビュー

橋渡しインタビュー

たかさんにアクシデント 決断へ揺れる思い明かす

2023年8月6日

 福祉仏教for believeでおなじみの音楽ユニット「たか&ゆうき」にアクシデントが起きた。筋萎縮性側索硬化症(ALS)=用語解説=患者の「たか」こと古内孝行さん(43)が高熱を出し、出演が決まっていた6月のオンラインイベントで歌えなかったという。新曲を1人で歌い切った介護福祉士の「ゆうき」こと石川祐輝さん(41)に取材し、今後たかさんがどのように難病と向き合っていくのかを聞いた。

たかさんの息子と一緒に
たかさんの息子と一緒に

「たか&ゆうき」記事第6弾

 たかさんは6月初旬に突如高熱を出し、肺炎で入院。現在は退院して、家族に見守られながら在宅で酸素吸入を行っている。

 入院中は家族の面会が15分だけ許されていた。手や足が動かなくても感覚だけはあり、白い天井を見つめながらさまざまな思いを1人で巡らせていたという。

 医師からは、一刻も早く気管切開をして、人工呼吸器を装着する必要があると宣告を受けたという。肺の一部が機能しておらず、いつ発作が起きるか分からない状態での生活には、限界があった。

 妻の一美さんと先のことを話し合うことに、たかさんは苦しい思いをしながらも、手術の返事ができなかった。

 気管切開になれば、今までのように声を出して思い切り歌うことができなくなる。でも、家族のそばにいて息子や妻と過ごす日々は長く続くかもしれない。同時に、妻への負担は今よりかかることも分かっている。

 一方、緩和ケアはこのまま現状を維持し、痛みやつらさをできるだけ和らげながら、本人の意向に沿って終末期に入ることを意味する。

 「今までは、気管切開をする気持ちでいました。そのために歌を歌い、できるだけ声を残して、手術後も活動を続けていくという気持ちでいました。でも、いざ目の前にすると考えが変わってきて、このまま緩和ケアを選ぼうかと…」。たかさんの中に、迷いが出てきているという。
 
 青春時代からいつもそばにあった音楽。歌えなくなる現実を突きつけられ、たかさんは決断しかねていた。

「歌おう!つながろう!」に出演

 世界ALSデーの6月21日、一般社団法人Uniqueのオンラインイベント「歌おう!つながろう!」に、たか&ゆうきは2人で出演する予定だった。

また一緒にイベントで歌いたいと願う2人
また一緒にイベントで歌いたいと願う2人

 2人にとって、とても意味のあるイベントであり、新曲も2人で歌って披露するはずだった。「何としても」という思いから、たかさんは居ても立ってもいられず、イベント前日に自分から退院してしまった。

 しかし、2週間の入院生活は歌えるまでの体力は残っていなかった。オンラインイベントでは、退院して自宅に着いた際に撮影されたメッセージ動画が流された。

 新曲『限りある時間(とき)の中で』を紹介しながら、自分の現状を次のように報告した。

 「肺炎になり回復を見込めるか分からない中で、これからどうしようか…。本当に時が短くなったと実感しています。これから気管切開をするのか、声を残していく緩和ケアをするのか、正直迷っています」

 気管切開か緩和ケアかの選択を迫られていることを、ファンに明かした。けれども、大好きな音楽への熱意は変わっていない。

 「今回、『限りある時間の中で』という歌を作りました。僕自身も、限りある時間の中で何か残せたらいいなと思い、これからも活動を続けていきたいです」

 そう語って、ほほ笑むたかさん。イベントではその後、オンラインで登場したが、歌はゆうきさんのみが歌った。明るくどこか切ないバラードで、いつも支え合ってきた2人の思いがぎゅっと詰まった、穏やかな曲だった。

【限りある時間の中で 作詞・作曲 たか&ゆうき】

目が覚めて 聴こえてくる 懐かしいメロディ
幼き日の あの温もりと一緒に居る
腕の中 君の頬 柔らかな香り
かけがえの無い あの瞬間を覚えているかい

瞬く間に流れてゆく 箒星(ほし)の輝き
儚く揺れてる燈と 気付き始めた
限りある時間(とき)の中で いま何が出来るのだろう
見たこともないまだ誰も知らない事 溢れている

限りある時間(とき)の中に 瞬間(いま)という奇跡がある
忘れたくない 忘れてほしくない事 この歌に込めて
目まぐるしく 過ぎゆく日々 忘れかけていた
いつも傍で 「大丈夫」と支えてくれる

変わらない この想い 大切な君と 誓い合った 約束を覚えているかい
何気なく過ごしてきたことが かけがえのない 心の安らぐ居場所だと 気付き始めた
伝えたいたったひとつ この言葉を貴方へ

 

 

 歌詞の中に出てくる「いま何が出来るのだろう」。限られた時間に何をして過ごすのかは、2人にとって重要だ。

 「少しの考える時間が欲しい」と、人生の岐路に立つたかさんは話す。

僕らは支え合ってきた

 ゆうきさん自身は、今後のたかさんについてどう思っているのか。
 
 「僕は、たかゆきの思いを尊重するつもりです。ミュージシャンあるあるですが、歌い手はみんなステージで燃え尽きて死にたいと思うんじゃないかと。昔から偉大なアーティストは若くして亡くなる人が多いから、何となく自分に置き換えてみたりするんですよね」と笑っていた。

取材中、夕焼けを見ながら話すゆうきさん
取材中、夕焼けを見ながら話すゆうきさん

 当然、決断するのはたかさん本人だが、ゆうきさんの本音は、緩和ケアではなく気管切開を行って、人工呼吸器を付け、一日でも長く生きてほしい―というものだった。「このまま終わったら、あまりにも切ない」と、ゆうきさんはつぶやいた。

 ゆうきさんとたかさんが出会ったデイサービス琴平(埼玉県所沢市)では、今後たかさんが24時間介護が必要になってもいいようにと、ゆうきさんと職員が重度訪問介護の研修を受ける予定でいる。

 本当は、デイサービスの介護士が利用者のために、そこまでする必要はない。だが、2人は音楽を通して家族のような関係を築き、お互いを支え合ってきた。万一、近い将来何があっても最後まで支え、親友に寄り添う覚悟がある。

 「いろんな選択肢があるから、家族のバックアップもしながら、可能性のあることを探してできることをやっていきたいです。ALSをきっかけに僕たちはつながった縁だから」

 たかさんの難病がなければ、2人は出会えなかった。今は応援してくれる温かいファンも多い。最初に活動を始めた頃の願いである「ALSのYouTuberになってバズろう」は、まだ終わっていない。

 家族やデイサービスの職員、ボランティアや音楽活動の仲間…。全ての人を巻き込んで、楽しく笑顔で過ごしてきた日々を、ゆうきさんはかみしめていた。

【用語解説】筋萎縮性側索硬化症(ALS)

 全身の筋肉が衰える病気。神経だけが障害を受け、体が徐々に動かなくなる一方、感覚や視力・聴力などは保たれる。公益財団法人難病医学研究財団が運営する難病情報センターによると、年間の新規患者数は人口10万人当たり約1~2.5人。進行を遅らせる薬はあるが、治療法は見つかっていない。

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