2024年7月15日 | 2024年7月18日更新
福祉仏教for believeで人気の音楽ユニット「たか&ゆうき」。筋萎縮性側索硬化症(ALS)=用語解説=患者の「たか」さんこと古内孝行さん(44)と介護福祉士の「ゆうき」さんこと石川祐輝さん(42)が、6月9日に埼玉県から名古屋市まで遠出した。目的は「世界ALSデー in NAGOYA みんなでゴロンしよう!」のイベントに参加すること。今回はその模様を紹介する。
今年2月の取材で、たかさんが「2024年は勝負の年」と言っていた。
頭の中にあったのは、自分と同じALS患者たちが中心になっている「世界ALSデー in NAGOYA みんなでゴロンしよう!」のイベントだった。会場は愛・地球博記念公園(愛知県長久手市)。ALSという難病についての正しい知識と理解を促す啓発活動は今年で10年目を迎えていた。
特にたかさんは、イベントでゲスト出演する一般社団法人WITH ALSの武藤将胤(まさたね)さんに会いたいと願っていた。
武藤さんは実業家であり、自身もALS患者。気管切開をしたため、現在は文字盤を使うことで言葉を伝えているほか、脳波と人工知能(AI)を組み合わせてコミュニケーションを取れるよう、最新の研究に携わっている。
一行はイベント当日、午前7時に所沢市の自宅から車で出発。2人以外には普段から顔見知りのマッサージ師と、たかさんの父親が乗り込み、男性の4人旅となった。
片道5時間以上、途中休憩を挟みながら車を走らせ、午後2時ごろに到着した。
ゲストのトークセッションには間に合わなかったが、イベントのメインである「みんなでゴロンしよう!」には間に合った。会場で約1000人の参加者が横になり、5分間寝転がったまま動かないことで、ALS患者の気持ちになって考えようという体験だ。
この5分間の間に「これまでの私、これからの私」というタイトルで、事前にALS患者が用意していた動画とメッセージがモニターで映し出された。
たかさんは、妻と息子、ゆうきさんと4人で写っている写真とともに、このようなメッセージを送っていた。
「この病を告知されてから、およそ1年は受け止めることができずにいました。一歩踏み出せたのは、同じALS患者と話せるオンラインでの出会いです。たとえ体が動かなくても、何も諦めなくていい、何だってできると仲間に教わりました」
いつもそばにいる相方、ゆうきさんのことも伝えていた。
「介護福祉士のゆうきとの出会いがあったおかげで、今は歌うことが生きがいであり、リハビリにもなっています。声が続く限り歌い続けたい」
ゆうきさんも、これまでの2人の歩みを静かに振り返っていた。
会場では、これまでたかさんがオンライン上でしか話したことのないALS患者の仲間たちとあいさつできたという。顔を見るなり「やっと会えたねー」と言いながら、共に写真撮影をして語り合った。
たかさんが「僕らは命を削ってここまで来ている」と言うように、互いに誰がいつ寝たきりになり、声が出せなくなるか分からない者同士だ。そんな不安を日々感じながら、やっとの思いで車いすに乗り、名古屋まで駆け付けたのだろうと想像する。
見渡せば、車いすに乗る患者の周りに5、6人体制でスタッフが付き、チームとなって参加している人が多かった。ゆうきさんはその様子を観察して、今後の対策を考えなくてはと思っていた。
今回からゆうきさんは、プライベートでたかさんと出かけるのではなく、重度訪問ヘルパーの仕事で名古屋まで来ていた。
ここ最近、ゆうきさんの就労環境が変化。デイサービス琴平と訪問介護事業所の2カ所で働くようになった。今では週に1度、たかさんの自宅に訪問介護員として入り、夜間の対応も行っている。
「正直、安全安心を確保する外出には、もっと入念に対策を練る必要があると感じました。何かやりたくても、僕らだけではできないので、今後は医療従事者を含めたチームを作る方がいいと考えています」
今一番大切なことは、たかさんの体の現状維持だ。1日でも長く彼と一緒に過ごすためにも、今後の活動は医療の専門家に、今まで以上に協力を得る必要があると気付かされた旅でもあった。
慌ただしい日帰りの旅だったが、たかさんは非日常の濃い1日を体験し、夜中でも気分が高ぶって眠れなかったそうだ。
武藤さんとは、ステージ裏で短い時間だったが会話できたという。たかさんは、武藤さんが関わっているイベントに、どうしても「たか&ゆうき」で歌いたいと1年半前からアプローチをしていた。
武藤さんは病気になってから結婚し、現在は一人娘を育てる父親でもある。クリエイター、経営者として日々走り続け、生きる強さを持ち続けている姿を、たかさんは尊敬しているのだ。
「まだ確定ではないですが、もしかしたらこの秋に開催予定のイベントに出演できるかもしれない、と言ってくださいました。調整してもらっている段階ですが、どうなるのか楽しみです」
そのイベントとは、11月に東京・渋谷公会堂で開催される日本最大のALS啓発音楽フェスだ。今年の大勝負にかけて、ステージに立つチャンスをつかめるのか、期待が膨らむ。
運を天に任せて、次の曲作りを始めるたか&ゆうきだった。
【用語解説】筋萎縮性側索硬化症(ALS)
全身の筋肉が衰える病気。神経だけが障害を受け、体が徐々に動かなくなる一方、感覚や視力・聴力などは保たれる。公益財団法人難病医学研究財団が運営する難病情報センターによると、年間の新規患者数は人口10万人当たり約1~2.5人。進行を遅らせる薬はあるが、治療法は見つかっていない。