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インタビュー

橋渡しインタビュー

35歳で乳がん…生きる希望のおむすび 安藤梢さん

2025年9月6日

※文化時報2025年7月4日号の掲載記事です。

 愛知県岡崎市の安藤梢(こずえ)さん(39)は35歳で乳がんになったのをきっかけに、キッチンカーのオーナーになった。抗がん剤治療中に唯一食べられて、家族みんなが笑顔になれた塩だけのおむすびを、大勢の人に味わってもらうためだ。がん経験者や家族が買い求めに来ることも多く、握りながら会話する時間を大切にしている。(主筆 小野木康雄)

 羽釜で炊いた愛知県産の減農薬米・無農薬米に天日干しの天然塩をつけてふっくらと握り、焼きのりを巻く。安藤さんのキッチンカー「蟬(せみ)」で出されるのは、塩むすびだけ。それでもシンプルで優しい味から元気をもらおうと、多くのお客さんがやってくる。

(画像1店頭アイキャッチ兼用:「乳がんになって、人生でやりたいことが見つかった」と話す安藤さん)
「乳がんになって、人生でやりたいことが見つかった」と話す安藤さん

 乳がんと診断されたのは2020年8月。右手で物を取ろうとしたとき、右胸にチクリとした痛みを感じ、その後しこりに気付いた。受診の結果はステージ3C。他臓器に転移する一歩手前だった。

 「ショックだと思っている暇などなかった」。2人の子どもは当時4歳と2歳。とにかくどうやって生きていくかを考えなければならなかった。手術で右胸を全摘出し、退院後も抗がん剤治療と放射線治療に取り組んだ。

(画像2:手術を受けて退院した日、子どもたちと再会を喜んだ(本人提供))
手術を受けて退院した日、子どもたちと再会を喜んだ(本人提供)

 特につらかったのが、抗がん剤治療。投与後2~3日は気分が悪く、一向に食欲が湧かない。そんなときに、持病のある義母が震える手で握り、やっとの思いで持ってきてくれたのが、塩むすびだった。

 「『塩むすびって、こんなにおいしかったんだ』と感動した。唯一食べられた食事で、忘れられない味になった」

 この感動を、他の人にも届けたいと思った。

店頭で話を聴く

 食生活を日本食中心に見直しはじめたころ、家族で喫茶店へモーニングを食べに行った。だが、メニューは洋食ばかり。自分に食べられるものはなく、家族がおいしそうに味わっているのを見ると切なくなった。

 ふと「私、がん患者のために、がん患者が料理を作る食堂やるわ」と口にすると、夫が「面白いね」と後押ししてくれた。

(画像3:抗がん剤治療中に夫と写真に写る安藤さん。家族の存在に救われた(本人提供))
抗がん剤治療中に夫と写真に写る安藤さん。家族の存在に救われた(本人提供)

 まずはキッチンカーから始めようと、22年にクラウドファンディングに挑戦。目標の50万円を大きく上回る212万5308円を集め、無事購入にこぎ着けた。

 昨年4月に「蟬」をオープン。地元紙やテレビ局に取り上げられるなど反響を呼び、同世代の乳がん患者や、がんでわが子を亡くした親が買い求めに来るようになった。店頭で話を聴く機会も増えてきたという。

 今年4月には、地元の真宗大谷派本光寺(稲前恵文住職)で行われた「おかざきグリーフケアマルシェin本光寺」に出店した。

(画像4:キッチンカーで、お客さんはさまざまな話をしていくという)
キッチンカーで、お客さんはさまざまな話をしていくという

 若くして友人を胃がんで亡くしたという竹原知佳さん(37)も店を手伝った。「グリーフ(悲嘆)をテーマにしたイベントと聞いて、私もできることがあれば役に立ちたいと思った」と話す。

患者が集うカフェを

 グリーフケアマルシェでは、お客さんからなぜ屋号が「蟬」なのかという質問が相次いだ。そこには、安藤さんのこんな思いが込められている。

 がんになる前は、やりたいことも夢もなかった。まるで暗い地中でじっとしているかのような人生だった。でも、がんになって地上に出たセミのように、世の中はこんなにカラフルなのだと思えた―。

 「これからの私の人生は、健康な同級生に比べたら短いかもしれない。けれども夏を知らせるセミのようにミンミン鳴いて、精いっぱい生きていく」

(画像5:塩むすびは注文を受けてから握る)
塩むすびは注文を受けてから握る

 目標は、がんに悩む人たちのコミュニティーになるようなカフェをつくること。自分自身、乳がんと診断されたときに治療や将来への不安で押しつぶされそうになり、他の患者や元患者から話を聞ける機会が欲しかったからだ。

 現在も注射と服薬によるホルモン治療で闘病中。それでも「忙しくて、再発している暇なんてない」と前を向く。

 がんになったら終わりではなく、始まりだということを、まだ見ぬ仲間たちへ伝えるために。

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