2023年1月13日 | 2024年8月28日更新
※文化時報2022年4月1日号の掲載記事です。
学校でのいじめが深刻な社会問題となって久しい。2013(平成25)年、「いじめ予防対策推進法」が施行されたが、ネット社会の子ども世代への浸透を背景に、無料通話アプリ「LINE」や動画投稿サイトを媒介とする新たな態様のいじめも増加し、いじめられた子どもが自ら命を絶つという悲劇が繰り返されている。
どうすればいじめを根絶できるか。日弁連は、その取り組みの一つとして、弁護士が直接小中学校の教室に赴く「出前授業」の形でいじめ予防授業を行っている。もともとは東京の平尾潔弁護士が独自に展開していたプログラムをベースに、子どもの権利に関わる問題に取り組む弁護士たちが、それぞれの地域の特色や学校のニーズを踏まえてカスタマイズし、全国で実践されるようになったものだ。
この授業ではまず、子どもたちに、「いじめられる側にも問題があると思うか」という質問を投げ掛ける。多くの教室で、7~8割の生徒が「はい」と答える。そこで、「いじめられる側も悪い」と思う理由を発言してもらった後、「では、同じ理由で、あなた自身がいじめられたら?」と問い掛ける。
次いで、実際にいじめで自死に至った具体例を紹介する。始めは小さないじめでも、それが繰り返されることで心の中にあるコップの水がいっぱいになり、最後の一滴が自死を決意させるきっかけとなることもある、だから、いかなる理由でも、どんなに些細(ささい)ないじめでも、絶対やってはいけない―という強いメッセージを伝える。
さらに、ドラえもんの登場人物を例に、いじめている子(ジャイアン)、いじめられている子(のび太)、いじめに便乗する子(スネ夫)、傍観者(しずかちゃん)という「いじめの四層構造」を示し、いじめをなくすためには「しずかちゃん」が行動を起こすことこそが必要であると強調する。
最後に、その教室に現にいるかもしれない「いじめられている子」「いじめている子」に語り掛けるのだが、この授業の一番のポイントは「いじめている子」を悪者扱いしないことである。「いじめをしたという記憶が、いつか、あなたの心の傷になる。大切なあなたに、そんな傷を負ってほしくない」
いじめた相手に自死された後、いじめていた子には「加害者」というレッテルが貼られ、指弾される。いや、それ以上に、内なる自責の念に押しつぶされる長い人生が待っているのだ。
ロシアがウクライナに侵攻して1カ月がたった。私はいま、この授業の最後のメッセージを、ウクライナ人に銃を向けるロシア兵に伝えたい。「大切なあなたに、心の傷を負ってほしくない」と。
【用語解説】大崎事件
1979(昭和54)年10月、鹿児島県大崎町で男性の遺体が自宅横の牛小屋で見つかり、義姉の原口アヤ子さん(当時52)と元夫ら3人が逮捕・起訴された。原口さん以外の3人には知的障害があり、起訴内容を認めて懲役1~8年の判決が確定。原口さんは一貫して無実を訴えたが、81年に懲役10年が確定し、服役した。出所後の95年に再審請求し、第1次請求・第3次請求で計3回、再審開始が認められたものの、検察側が不服を申し立て、福岡高裁宮崎支部(第1次)と最高裁(第3次)で取り消された。2020年3月に第4次再審請求を行い、鹿児島地裁は22年6月に請求を棄却。弁護団は即時抗告し、審理は福岡高裁宮崎支部に移った。