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「文化時報」コラム

⑲早緑のきらめき

2023年2月8日

※文化時報2022年5月20日号の掲載記事です。

 風薫る5月。街のそこかしこで新緑がまぶしい。春の桜も秋の紅葉も素晴らしいが、私は清々(すがすが)しい風に揺れながら陽光にきらめく早緑(さみどり)に彩られるいまの季節が好きだ。

ヒューマニズム宣言サムネイル

 この春から龍谷大学大学院修士課程で全15回のゼミを担当している。私は研究者ではないので、自分が大崎事件の再審弁護人として活動する中で直面する刑事司法のさまざまな問題をテーマにして、学生さんたちと議論しながら一緒に考える、というスタイルで講義を進めている。テーマごとに担当者を決めて、講義の冒頭でミニプレゼンをしてもらうのだが、それぞれの苦心の跡がうかがえる発表を聞くのが楽しい。

 今月は近畿大学と京都産業大学にも講演に招いていただいた。

 近畿大学での講演は3年ぶりで、前回は大崎事件の第3次再審で地裁・高裁が再審開始を重ねるまでの苦闘の歴史と、なぜそうまでして無報酬で苦労の多い再審事件に取り組むのかという、誰もが抱く疑問にも言及した。冤罪(えんざい)被害者の人生をめちゃくちゃにしたのは司法の誤りだが、それを救うのも、同じ司法に携わる弁護士にしかできない仕事であること。再審弁護を通して、全国の弁護士、研究者、医学や心理学の専門家、ジャーナリスト、映画監督といった多様な人々と知り合いになり、それはまさに「プライスレス」の財産であること…。そうした醍醐味(だいごみ)を語った。

 このとき大学1年だった学生さんが私の講演を聴いて弁護士を目指すことを決心し、この春法科大学院に進んだという。

 今回は、地裁・高裁の再審開始を最高裁に取り消されてもなお、第4次再審を闘っている現状を話したところ、講演後に何人もの学生さんから「先生、頑張ってください」と励まされた。「自分も司法試験頑張ります」と付け加えた4年生もいた。

 京都産業大学では、私が大崎事件に関わったきっかけを話した。私には知的障がいを持つ弟がいるため、大崎事件を捜査した警察・検察が、知的障がいのある「共犯者」から自白を絞り取るさまが手に取るように分かったからだ、と。

 すると講演後に頬を紅潮させて私のところに飛んできた学生さんがいた。

 「私は兄と弟に知的障がいがあり、その環境に悩みながら、自分が進むべき道を模索していました。今日のお話を聞いて、先生も同じ境遇を弁護士という仕事に活(い)かしていると思い、必死でメモを取りました。興奮して途中から手が震えるほどでした」―。 

 きらめく早緑が、いつか大樹となって葉を茂らせる予感がした。

【用語解説】大崎事件

 1979(昭和54)年10月、鹿児島県大崎町で男性の遺体が自宅横の牛小屋で見つかり、義姉の原口アヤ子さん(当時52)と元夫ら3人が逮捕・起訴された。原口さん以外の3人には知的障害があり、起訴内容を認めて懲役1~8年の判決が確定。原口さんは一貫して無実を訴えたが、81年に懲役10年が確定し、服役した。出所後の95年に再審請求し、第1次請求・第3次請求で計3回、再審開始が認められたものの、検察側が不服を申し立て、福岡高裁宮崎支部(第1次)と最高裁(第3次)で取り消された。2020年3月に第4次再審請求を行い、鹿児島地裁は22年6月に請求を棄却。弁護団は即時抗告し、審理は福岡高裁宮崎支部に移った。

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