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「文化時報」コラム

〈37〉正解のない着陸

2023年6月24日 | 2024年8月5日更新

※文化時報2023年3月3号の掲載記事です。

 緩和ケア病棟では、毎日カンファレンスをしています。さまざまなケースについて、多職種間で意見交換をしながら、慎重にケアを進めるためです。そのカンファレンスがいつも重い空気になるのは、鎮静をかけるタイミングについて検討するときです。

傾聴ーいのちの叫び

 身の置き所がないほど苦しくなってしまった患者さんを、その苦しみから解放するために、深く眠らせる。でも、家族は「もう話せなくなってしまう」「そのまま死んでしまうのではないか」と躊躇(ちゅうちょ)する。医者も「まだ諦め切れない」と言う。 
 
 誰にも正解なんて、分かりはしません。それでも、砂時計の砂は止まってくれないのですから、私たちも立ち止まっているわけにはいかないのです。先が見えないままに、決断をしなければならないのです。

 そんなカンファレンスの後は、どの顔も精気を失い、青黒くむくんだように見えます。

 私は、人は1機の飛行機のようなもの、そして、飛行時間は人生だと思うことがあります。

 えいやと勢いをつけて離陸すると、広い大空を飛びはじめます。しっかりと目的地が定まっている場合もあるでしょう。どこに行くかも分からず、ただ前に進むときもあるはずです。
   
 時には、別の飛行機に出会いしばらく並んで飛んだり、数機がまとまって同じ方向を目指したりもするでしょう。嵐に遭うことも、追い風に乗ることも、冴(さ)え冴(ざ)えとした月光に包まれることもあるでしょう。

 でも、いつまでも飛び続けているわけにはいかないのです。無事空に浮いたその次の瞬間から、いつの日か着地しなければならないことが決まっています。必ず。

 飛行機の操縦は、離陸と着陸が大変なのだそうですね。人生もそう。生まれるのも、死ぬのも、大仕事です。まさに命懸けです。急転直下で激しくバウンドしながら着地するのか、緩やかにすう~っと軟着陸するのかは、パイロットの腕の見せどころです。

 果たして、あなたという飛行機のパイロットは、誰?

 

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