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「文化時報」コラム

㊸困らせる贈り物

2023年8月24日

※文化時報2023年6月2日号の掲載記事です。

 母から電話がありました。「お米が25キロくるんだけど、食べてくれる?」。何のことやら分からず調べたところ、急激な物価高の影響で経済的に苦しむ人を支援するために、東京都が低所得世帯に対して、国産の米や野菜などの食料品と引き換えられるクーポン券を支給する方針を昨年末に固めたようです。

傾聴ーいのちの叫び

 関連経費を含めた総予算額は、約300億円。不勉強でお恥ずかしい限りですが、母から聞くまで全く知らずにいました。粋な計らいをするものだと感嘆し「よかったじゃない」と返すと、そうでもないと言うのです。

 1人暮らしの母は倹約家でつつましい生活をする人ですが、昔からお茶と米だけは多少お金を出してでも納得のいくものを自分で選んできました。つまり、母は、このサービスを受ける該当者ではなかったということですね。

 このお米が本当に必要としている人のところに届けばいいのにとひとしきり話していると、「困っている人は他にもいる」と言います。

 実はこのクーポン券、どこのお店でも使えるというものではなく、手続きを踏んで現物が支給される仕組みです。

 こだわり屋の母のところには長年出入りをしている個人商店の米屋さんがいるのですが、このサービスが実施されたせいで大打撃を受けているそうなのです。そりゃそうですよね。25キロの米は、母ひとりで食べ切るには1年かかります。つまり、向こう1年は注文しないわけですから。「つぶれる店も出てきそうだ」と、米屋の旦那はいたく憤慨していたそうです。

 はあ~。難しい。万人が満足する方法はないものでしょうか。300億円も予算があるのですから、もっとうまい方法を思いつく人がいそうなものですが。

 「根っこが欲だから駄目なんだよ」。お茶をすすりながら母が言い放ちました。そうか。お大師様も、「菩提心(ぼだいしん)を因と為し、大悲を根と為せ」とおっしゃっていましたっけ。このサービスの根っこも、清らかな菩提心でありますように。

 

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