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「文化時報」コラム

㊾憎しみ知る遺族に学ぶ

2023年9月12日

※文化時報2023年1月31日掲載記事です。

 「己が身をひきくらべて、殺してはならぬ。殺さしめてはならぬ」。ダンマパダ(法句経)129にこの一節がある。本紙読者諸氏でご存じない方はまずいないと思う。

 先日、大阪で逃走車両を運転していた男性に向けて警察官が発砲し、男性が死亡するという事件が起きた。筆者の自宅近くで発生しており、家族や近隣住民が巻き込まれていても不思議はなかった。

 大学の講義で学生たちに問うてみた。「男を止めてくれて警察官に感謝」なのか? あるいは「どんなことがあっても他の命を奪うことは許されない」なのか?

 実は、その講義にはゲストスピーカーをお招きしていた。本郷由美子さん。2001(平成13)年に起きた大阪教育大学付属池田小事件で命を奪われた児童のお母さまである。事件の加害者は死刑確定後1年足らずで刑が執行されるなど、他に類を見ない事件だった。巻き込まれた関係者は、今も大きな心の傷が残り苦しんでいると思う。

 ダンマパダ5には次のような一節もある。「怨(うら)みに報いるに怨みを以(もっ)てしたならば、ついに怨みの息むことがない。怨みをすててこそ息む」と。また、法然上人がお父さまから「仇(かたき)討ちをしてはならぬ」と遺言された話が後世にも広く伝わっている。

 しかし、そんな話を犯罪被害者のご遺族にできるだろうか?

 「仏教批判になっても結構ですから、学生たちに本郷さんのお言葉を直接聞かせてあげてください」とお願いして遠路お越しいただいた。本郷さんは事件直後、加害者に対する恨みでおかしくなりそうだったと語られた。そんな時、グリーフ(悲嘆)ケアに出会い感情を吐き出すことは悪いことではないと知る。そして、長い苦悩の時間を経て「憎しみからは何も生まれない」と感じるようになったそうだ。

 ダンマパダはお釈迦様の言葉に最も近い経典の一つといわれている。知識として知ってはいるが、筆者にとっては「体解」はほど遠いと思っている。お経の一節を引用して知ったような口を利く前に、苦悩する人々の声を聞かせていただくのが先だと痛感している。

 

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