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「文化時報」コラム

〈53〉続・うれしい来訪者

2024年1月14日

※文化時報2023年11月24日号の掲載記事です。

 ちょうど1年前、このコラムの第30回(2022年11月25日号)で、京都府立嵯峨野高校2年生の生徒たちが私の事務所を訪問したことを書いた。学校図書館で推薦図書になっていた拙著『大崎事件と私~アヤ子と祐美の40年』を読み、冤罪(えんざい)や再審事件に関心をもった4人の生徒が「冤罪からの救済」を研究テーマに据え、私にインタビューするために来たのだった。

ヒューマニズム宣言サムネイル

 4人の生徒たちは、探究を重ね、あるべき再審制度について自分たちなりの考えをまとめ、研究成果を校内で発表した。その活動は京都新聞でも取り上げられ、現在、日弁連の再審法改正特設サイト「ACT for RETRIAL」に、この研究に取り組んだ生徒2人とその保護者のインタビュー記事が掲載されている。

 あれから1年。当時の2年生たちは大学受験の準備に専念する時期となったが、何とその後輩に当たる現2年生4人が、今年も事務所を訪ねてきてくれた。

 今年の2年生たちは、先輩の研究に接し、再審法改正の必要性を共感しつつも、「こんなに必要なことが、なぜなかなか実現しないのか」という素朴な疑問を持ったという。そして、その原因は国民の冤罪や再審に対する意識の低さにあるのではないか、との仮説の下、今年6月5日に福岡高裁宮崎支部で、再審が認められなかった大崎事件(第4次再審)を報じるヤフーニュースに付いたコメント、いわゆる「ヤフコメ」を分析するという切り口で研究を進めている。その途上で一度私に助言を求めたいというのが来訪の用向きだった。

 国民の認識や関心をヤフコメから分析する、という手法は、まさにネット世代の高校生ならではのもので、その着眼点に驚かされた。生徒たちは、142のヤフコメをプリントアウトして切り取り、内容ごとに分類して貼り付けた巨大な模造紙を会議室のテーブルに広げた。裁判所の判断を絶対視するコメント、「三審制で確定しているのだから、再審制度そのものが不要」というコメント、弁護士が『不当決定』という紙を掲げたことに不快感を示し、それを報じるマスコミに対しても「偏向報道」と批判の目を向けるコメント―。

 「当事者」にとっては見るに堪えないような酷い内容も多く含まれているが、高校生たちはそれらを丹念に分析し、このような国民一般の認識を変えていくために何をすべきなのか、を研究のゴールとして模索しているのだ。

 ある生徒は「義務教育の段階から、冤罪の問題を教えることが必要ではないか」と真剣なまなざしで語っていた。

 再審法をテーマに選んだ「2代目」たちの研究成果の発表は来年2月に行われるという。若き探究者たちの投げかけた一石が、世論の水面に波紋を広げていく。

【用語解説】大崎事件

 1979(昭和54)年10 月、鹿児島県大崎町で男性の遺体が自宅横の牛小屋で見つかり、義姉の原口アヤ子さん(当時52)と元夫ら3人が逮捕・起訴された。原口さん以外の3人には知的障害があり、起訴内容を認めて懲役1~8年の判決が確定。原口さんは一貫して無実を訴えたが、81年に懲役10年が確定し、服役した。出所後の95年に再審請求し、第1次請求・第3次請求で計3回、再審開始が認められたものの、検察側が不服を申し立て、福岡高裁宮崎支部(第1次)と最高裁(第3次)で取り消された。2020年3月に第4次再審請求を行い、鹿児島地裁は22年6月に請求を棄却。福岡高裁宮崎支部も23年6月5日、再審を認めない決定を出した。

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