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「文化時報」コラム

〈58〉8050問題の影

2024年4月1日

※文化時報2024年2月16日号の掲載記事です。

 地元で月に1回開催しているグリーフ(悲嘆)ケアの会でのことです。

 初めて参加してくださった80代のご婦人は、2週間前に50代の娘さんを自死で亡くされたばかりでした。「まだ、夢の中にいるみたい。頭の中がごちゃごちゃで、なにがなんだか分からないんです」。

傾聴ーいのちの叫び

 娘さんは、19歳のときに双極性障害と診断され、それからずっと医者との縁が切れたことがない生活だったそうです。それでも、コントロールできていた時期も長くあり、「病気なんて噓(うそ)だったんではないかと思うほど、元気なときもあったんです」と。

 就職して仕事をするまでになっていたこともあったものの、心の状態はなかなか安定せず、ここ10年は家でゆっくり過ごす日々を送っていたそうです。娘さんが30歳になろうという頃にご主人が病気で亡くなられたものの、「あの子の父親がしっかりといろいろ整えていってくれました」とのことで、母子2人の生活になっても、経済的に困るようなことはなかったそうです。

 このまま2人で静かに暮らしていけると安心していると、「私が80歳になった頃から、娘が8050問題=用語解説=というようなことを、言うようになったんです」。その頃から娘さんは、しきりと母親の体力の衰えを気にし「前はもっとてきぱき動いていた」と、文句を言うようになりました。

 体力には自信があり、まだまだ頑張れると自負していたご婦人は、そんな娘さんの言葉を聞き流していました。でも、あの日、「買い物から戻ると世界が一変していました」。テーブルの上には「もう、頼れない。できない。」と書きなぐった紙が一枚、置いてあったそうです。

 「娘は、80を超えた私に、頼ることを良しとしなかったんでしょうか。私は、8050問題を、娘に片付けさせてしまったんでしょうか」

 グリーフケアよりもっと前に関われていたら…。わが地域にも「お寺と教会の親なきあと相談室」を一刻も早く開設しなければと、静かに思った帰り道でした。

【用語解説】8050問題(はちまるごーまるもんだい)

ひきこもりの子どもと、同居して生活を支える親が高齢化し、孤立や困窮などに至る社会問題。かつては若者の問題とされていたひきこもりが長期化し、80代の親が50代の子を養っている状態に由来する。。

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