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インタビュー

橋渡しインタビュー

子ども・若者に安全な居場所を 幸重忠孝さん

2025年4月25日

※文化時報2025年2月14日号の掲載記事です。

 大津市の住宅街に一軒家を借りて運営するNPO法人こどもソーシャルワークセンター(CSWC)は、さまざまな事情で生きづらさを抱える子どもや若者たちに安心して過ごせる居場所を提供し、住み慣れた地域の中で支えていく活動に取り組んでいる。幸重忠孝理事長(51)は仏教福祉を学び、児童養護施設職員やスクールカウンセラーとして多くの子どもや若者と接してきた。幸重理事長が考える福祉の在り方や宗教者の役割とは何か。(佐々木雄嵩)

寺院の影響力に期待

――CSWCを立ち上げたいきさつを教えてください。

 「2012(平成24)年に設立した独立型社会福祉士事務所を前身とし、18年にNPO法人格を取得した。児童養護施設や公立中学校で児童福祉に携わってきたが、制度のしがらみや対応できる範囲の狭さに限界を感じて独立を決意した」

 「児童養護施設は入所の要件が厳しい反面、退所後は『頑張って生きてね』で終わってしまう。人手不足で子どもたちにじっくり向き合う時間もなく、職員が疲弊して3年ほどで辞めていく現実も見た」

 「スクールカウンセラーの仕事では、学校以外で過ごす時間に生きづらさを抱えている子どもたちの多さに気付かされた。『もう自分で動くしかない』と思い、広がりつつあった横のつながりを生かし、地域の力を借りた居場所づくりを始めた」

――賛同寺院に助けられています。

 「公的機関の補助金や民間からの寄付金には限度がある。協力寺院のフードバンク活動や寄付などに助けられている部分が大きい。活動に共感してくれる宗教者の輪は徐々に広がっている」

(画像1:真宗大谷派大津別院で行われた交流行事に参加する若者たち(CSWC提供))
真宗大谷派大津別院で行われた交流行事に参加する若者たち(CSWC提供)

 「寺院で行われる行事や社会活動などに誘われることも増えた。子どもたちは率先して参加し、さまざまな世代と触れ合うことで生き生きと活躍している。寺院からも、子どもたちが来ると住民に笑顔が生まれると好評だ」

 「地域コミュニティーとしての寺院の影響力、宗教者の存在感に期待している。寺院の声掛けで援助物品は格段に増え、多くの住民とご縁を結ぶ機会があることも実感した。地域で共に生きる仲間として、今後も手を取り合っていきたい」

 《CSWCでは、いじめや家庭不和などの悩みを抱えた子どもたちをありのままに受け入れ、安心して過ごせる環境を保障している。打ち解けた子どもたちの何げない会話から、問題に気付けるという》

――普段の活動内容を教えてください。

 「午前10時から午後4時までは、日中や休日を過ごす第三の居場所として『〝ほっ〟とるーむ』を開き、不登校の子どもやひきこもりの若者が集まっている。子どもたちを直接サポートするのはボランティアの地域住民で、さまざまな世代が交流する場になっている」

 「午後5時から9時までは、夜の居場所として『トワイライトステイ』を開く。利用者は約30人いるが、曜日ごとに入れ替えているので一度に受け入れる数は3人ほど。家庭にいるようなほっとする環境で一緒に食事を取り、自由に過ごしてもらう」

――同じ時間を過ごすから、異変を感じ取れるというわけですね。

 「子どもは社会や世界が狭く、自分の日常が当たり前になってしまっている。自分の困難な状況に気付けず、相談する方法も分からない。普通だと思って話す何げない会話から知る問題も多い」

 「家庭環境に心配な点があれば、ソーシャルワーカーのスタッフが福祉方面に働き掛ける。児童相談所に保護されたり児童養護施設に引き取られたりする子もいるが、何とか住み慣れた地域で支えながら生きていける場所をつくれないかと思い続けている」

――「お風呂」の時間を大切にしていると聞きました。

 「地域の銭湯にみんなで歩いていく。大きな湯船にゆっくり漬かるといろいろな話ができる。住民との交流が生まれることもあり、大事な時間と捉えている」

(画像2:子どもたちと地域の銭湯に向かうのが恒例(CSWC提供))
子どもたちと地域の銭湯に向かうのが恒例(CSWC提供)

 「男女のスタッフがそれぞれ付き添うので、体の異変や異性に話しづらい悩みを知ることもできる。一人一人と過ごす時間を大切にし、丁寧に寄り添えるのがCSWCの強みだ」

――中学時代に受けたいじめが活動の原点にあるそうですね。

 「中学3年のときに同級生からいじめを受け、卒業まで苦しい日々を過ごした。担任は親身になって相談に乗ってくれたが、問題は解決せず、安心・安全な日常は突然崩れるのだと悟った。将来の選択肢に教職を考えていたが、教師は集団を見る仕事で個人に向き合うのは難しいと分かり、諦めた」

 「自分のような困難な状況にある子どもたち一人一人に向き合って寄り添う仕事がしたいと思ったとき、福祉の道があると知った」

――仏教福祉の学びが根となりました。

 「当時の社会状況は福祉分野への関心が低く、宗教系の大学を中心にごく一部で学部が設置されていたのみだった。ご縁があって京都の花園大学で学び、仏教福祉の考えに触れた」

 「いかに目の前の困難な人に寄り添い、何ができるのかを考える実践重視の学びで、福祉の面白さと意義を感じる素晴らしい時間だった。福祉は知識や技術の前に、倫理や哲学が大切。花園大学で学んだ仏教的価値観は、今に生きている」

(画像3:子どもたちに人気の屋上バーベキュー(CSWC提供))
子どもたちに人気の屋上バーベキュー(CSWC提供)

――今後の展望を教えてください。

 「支部の設置や事業の拡大は視野にない。同じ思いを持つ仲間を増やすことが重要だ。今年に入ってから、さまざまな宗派から社会啓発を目的とした講演会に呼ばれる機会が増えた。福祉に興味を持ち、同じ思いを持って活動する人たちに経験やノウハウを伝えたい」

 「福祉で大切なことは、法律や制度ではない。目の前で困っている人に、生きる幸せを感じてもらいたいと願う私たちの心だ。活動に模範解答はなく、毎日が試行錯誤の連続だが、仲間と共に最善の道を選びたい」

 「家族関係がいびつでも、病や貧困を抱えていても、子どもたちには幸せを感じ取れる機会と可能性があることを証明したい。声なき声を拾い上げ、届けることで、CSWCが描くモデルを社会に普及させていく」

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