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インタビュー

橋渡しインタビュー

パラパラで元気、介護予防の新発見 谷口華苗さん

2025年5月10日

 札幌市の谷口華苗さん(40)は、中高年向けにダンスの「パラパラ」を教える講師として活動している。13歳のときにパラパラに魅了され、それ以来27年間、踊り続けてきた。昨年からは趣味の域を超え、介護ビジネスとして発展させたいと、介護予防教室のプログラムに取り入れている。屋号は「華苗」にちなんで「Kanae te clair」(カナエテクレール)。「うまく踊れないことも楽しむ」をモットーに、健康づくりを行っている。(飯塚まりな)

 パラパラは1980年代に日本で発祥したダンスの一種。テンポの速いダンスミュージックにのって、左右のステップと、両腕を交差したり広げたりするキレのある振り付けを組み合わせる。

 谷口さんは中学1年生のときにテレビ番組で初めてパラパラを踊る女性たちを見た。「カッコいい、私も踊りたい」と、すぐさま練習を開始。当時はすでに第3次ブームを迎えていた。

(写真①アイキャッチ兼用:パラパラを教える谷口さん)
パラパラを教える谷口さん

 そんな谷口さんは、2023年5月から介護予防教室や高齢者向けデイサービスに出向き、60代〜90代にパラパラを教えている。

 初めは仕事にする気はなく、無償で行っていた。

 だが、行政からの依頼で指導した際、参加者たちから好評で「講師料を払うのでまた来てくれないか」と頼まれた。作業療法士からも「最高の脳トレだ」と絶賛され、需要があると知った。パラパラを単なる趣味ではなく、ビジネスとしてやっていけると手応えを感じた。

 最近では地元メディアにも出演し、「パラパラは健康寿命を伸ばす期待のダンス」として放送された。

 令和のパラパラは脳トレであり、有酸素運動であり、全身の筋肉を活性化させる筋トレでもあるのだ。

(写真②:男女関係なくパラパラを楽しむ)
男女関係なくパラパラを楽しむ

 参加者は毎回20〜30人程度。「パラパラのおかげで歩くスピードが上がった」などと喜びの声が上がっている。

 NHK連続テレビ小説「おむすび」では、平成生まれの主人公がパラパラを踊るシーンがあり、朝ドラが好きな高齢者にとっては親しみを感じやすいのだとか。谷口さんは「再びパラパラにいい波が来ていると思う」と期待を寄せている。

バレー部で汗、家でひっそり

 谷口さんは1985(昭和60)年生まれ。北海道富良野市出身。中学、高校とバレーボール部で活躍していた。中高時代は髪を短くしたスポーツ少女だったが、一方でパラパラには誰にも負けない熱い思いがあった。DVDを見ながら、帰宅すると毎日練習していた。

 しかし、当時は自分の趣味に共感してくれる仲間がいなかった。周囲にパラパラへの熱意を隠し、家では気持ちを解放して踊った。父親から「家の畳が擦り切れるから、少しずつ場所をずらして踊ってほしい」と言われるほどのめり込み、家族は踊り続ける娘を温かく見守ってくれた。

 高校卒業後はバスガイドになった。毎日原稿を読み、膨大な情報を暗記し、全国から集まるツアー客に対応する。辞めていく同僚もたくさんいたが、負けずに立ち向かった。

 2020年、コロナ禍で仕事がなくなったときは、自宅待機中に暴飲暴食に陥ってしまった。気付けば体調不良やストレスで手が震えるなど、生活に支障をきたすようになった。何とか食生活を見直し、今後の働き方を考えるようになった。

 その後は人々がまた少しずつ観光旅行に出かけるようになり、谷口さんは久々にバスに乗車してマイクを手にした。これまで当たり前だと思っていた仕事に、心から感謝の思いが込み上げ、真心を込めて案内した。バスガイドになって18年。達成感に包まれる中、次なるステップを見つめ退職を決意した。

(写真③:チアダンスも行う)
チアダンスも行う

 富良野から札幌に移り住み、今までに経験したことのない職種に目を向けた。健康食品を取り扱う企業で働き、介護施設の紹介斡旋(あっせん)事業などにも関わって、自分の可能性を試した。何が自分に向いているのかを知ることも、大事な経験になった。

 そんな中、「パラパラが介護予防に役立つのでは」と、知り合った起業家たちから後押しされた。今では月の半分を講師としての活動に当て、世代の異なる人たちとパラパラを通して楽しい時間を過ごしている。

 それ以外にも仕事を持ち、観光シーズンにはフリーでバスガイドを務め、夜はすすきののスナックで働く日々を送っている。

パラパラ講師養成講座を始めたい

 谷口さんの教室では基本的なストレッチや、ドラマ「北の国から」のオープニング曲をパラパラ風にアレンジして踊るといったプログラムがある。

 参加者が最も楽しみにしているのは、谷口さんのソロダンス「本気のパラパラ」だ。クライマックスに披露することで最高に盛り上がるという。

 ある施設では普段、介助がなければ歩くことも難しい利用者が、谷口さんのパラパラに感激し一人で立ち上がって力強い拍手を送った。「パラパラがこんなにも人の心を動かすとは思わなかった」と、谷口さんは胸が熱くなった。

(写真④:参加者たちと笑顔でポーズ)
参加者たちと笑顔でポーズ

 今後の目標は、シニア向けのパラパラ講師養成講座を開くこと。「広範囲でパラパラ教室を開催するようになれば、私一人では回りきれない。地域の健康を底上げできる取り組みに賛同してもらえる方がいたら、私がパラパラの魅力をお伝えしたいです」

 かつて若者に愛されたパラパラが、令和の中高年に希望を与えている。年齢を重ねれば、誰もが身体の衰えを感じ「いつまでも元気でいたい」と望む。そんな願いを、谷口さんがかなえてくれるのかもしれない。

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