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インタビュー

橋渡しインタビュー

亡き母が導いた訪問歯科の道 青木かなえさん

2022年11月10日

 所沢エンジェル歯科クリニック(埼玉県所沢市)の院長、青木かなえさんは、一般歯科以外に病気や障害で通院が難しい患者の訪問歯科を行う。24年前、高次脳機能障害となり施設に入居した母の元へ通い、家族として口腔ケアを行っていたところ、介護士の間で話題になった。「見学したい」との申し出を機に、青木さんは高齢者や介護士、一緒に暮らす家族に向けて口腔ケアの重要性を伝えていくと決意したという。

院長青木かなえさん
院長青木かなえさん

 青木さんは 1962(昭和37)年7月、埼玉県飯能市生まれの開業歯科医。クリニックでの診療だけでなく、高齢者や障害・病気があって来院できない人の訪問診療に力を入れ、現在は10軒の訪問先を回っている。

 独身時代の勤務先の病院で、さまざまな理由から通院できなくなる患者さんを目の当たりにして、患者の自宅で治療ができればと思うようになった。当時はあまり普及していなかった訪問歯科を行う知人の現場を視察しようと、関西まで足を運んだ。

口腔ケアの歯科用品が並ぶ診察室
口腔ケアの歯科用品が並ぶ診察室

 98(平成10)年、母親が高次脳機能障害となった。介護と育児の両立に悩み、追い詰められ、役所に駆け込んだ。相談の結果、母親はサービス付高齢者住宅でお世話になることになった。

 その頃から、疲れ切った青木さんをいたわってくれたケアマネジャーや、大切な母親の介護をしてくれる職員たちに強い感謝の念を抱くようになった。

 2006年7月、母親の施設と自宅からほど近い場所に、所沢エンジェル歯科クリニックを開業した。時間を見つけては母親に会いに行き、母の口腔ケアも行っていた。すると青木さんが歯科医であることを知っていた介護士の間で「プロによる口腔ケアを見られる」と話題に。次第に見学する介護士や看護師であふれるようになった。

木目調の受付がホッとする雰囲気に
木目調の受付がホッとする雰囲気に

 青木さん自身も「普段母親を大切にお世話してくれている方々に恩返ししたい」と、できる限りの手ほどきをするうち、いつしか教えることにやりがいを感じ、新たな使命となった。

 6年前に母親が亡くなってからも、積極的に活動を続けてきた。老人ホームへの往診をはじめ、地域での講演や自院での口腔ケア講座など、高齢者の口腔ケアの重要性をいろいろな場所で周知してきた。

口腔ケアの大切さを伝え続ける青木先生
口腔ケアの大切さを伝え続ける青木先生

一番大事な口腔ケアは…

 では、実際に青木さんが口腔ケアの方法をレクチャーする際、どんなことを伝えているのだろうか。

 「すぐに取り組めることからお伝えしています」と青木さん。一番大事なことは“うがい”だという。

 「歯磨きの前に 20秒間うがいするだけで細菌は半分取れます。ブクブクする動きで、口の中の機能の衰えが分かり、同時に首の筋肉も鍛えられるので、一石二鳥。20秒間のうがいができない場合は、日頃から食事の際に食べこぼし、口先だけでかんで食事をしている可能性が高いと考えられます。近い将来、むせ込みや誤嚥(ごえん)する危険性もあり、食事形態を変えるなど工夫が必要になるかもしれないとの判断材料にもなります」

 「自分で磨けている」という人でも注意が必要だという。「実は、ほとんどの方がちゃんと磨けていません。『磨く』と『磨けている』は違う、ということです」。家族での対応が難しい場合は、訪問歯科の利用を勧める。細部まで磨けない部分や汚れを徹底的に取り除くことで、誤嚥性肺炎も防げるのだという。

 「いざ施設に入居する前には、通院が可能な間にレントゲンを撮ってほしいとお願いします。そして他科の診察券をまとめておき、どの病院を受診しているのか、誰でも分かるようにしておくこと。 何年使用した入れ歯なのか、インプラントをしたことがあるか―など過去の情報を知りたいときに、往診の担当医が早く確認できることで、本人の治療がスムーズに進むからです」

青木先生のお子さんが描いたイラストがクリニックのキャラクターに
青木先生のお子さんが描いたイラストがクリニックのキャラクターに

コロナを越えて活動したい

 しかし、青木さんの活動は2020年からの新型コロナウイルス感染拡大で、全ていったんストップした。老人ホームへの往診すらもできなくなった。第1波では来院患者も激減。一時休診の憂き目に遭った。介護職向けの、高齢者と家族のための口腔ケアの指導もできなくなった。

 せめて、長野県にある母校の歯科大学で、嚥下内視鏡(VE)検査の技術を学ぼうと研修生になったが、コロナ禍で県外からの受け入れがストップ。泣く泣く断念した。

 ただ、現在は訪問歯科の依頼が回復しつつある。クリニック開業当初からの患者も高齢化が進み、ぜひ自宅に往診に来てほしいとの声が増えている。ある時、今まで通院していた患者が病気で突如障害を抱え、往診を依頼された際には、共に涙を流し、一目散に駆け付けた。

エンジェルのような優しい歯科クリニックを目指して
エンジェルのような優しい歯科クリニックを目指して

できるだけ患者の声を聴き、寄り添うように努めてきたから、コロナ禍でも往診を依頼してもらえるのかもしれないと、青木さんは感じている。「今まで良い関係を築いてきたからこそ、自宅に行かせていただける。これが一番の理想」と語る。

これからも、求める声があればどの家にも訪問し、患者にとことん寄り添うつもりだ。口腔ケアの指導も、直接介護士に伝えていきたいという気持ちは変わらない。「再び機会があれば、未来の介護・医療現場に立つ人たちのために、さらに精力的に行いたい」と誓っている。

 

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