2026年4月5日
福祉仏教for believeでおなじみの音楽ユニット「たか&ゆうき」。今回は筋萎縮性側索硬化症(ALS)=用語解説=を患う〝たか〟こと古内孝行さん(45)を支える妻、一美さん(44)と、知的障害のある長男、奏多さん(13)にスポットを当てる。一家は今、奏多さんの学校卒業後の進路という課題に直面している。
古内家は毎朝7時ごろに起床。借家で暮らしており、2階は一美さんと奏多さんの寝室、1階のリビングにたかさんのベッドを置いている。
2年前、たかさんが肺炎で入院したことを機に、重度訪問介護=用語解説=の利用を始めた。それでもヘルパーが入らない日だと、朝は一美さんがたかさんのトイレや着替え、食事介助を行うのと同時に、奏多さんの身支度や通学バスの見送りをする。

昨年秋、たかさんが再び体調を崩し、約1カ月間寝込んでしまった。たんの吸引が頻繁に必要となり、片時も離れられず、互いに寝不足に。一美さんは仕事を休まざるを得ず、買い物に出ることすら困難になった。
こうした経験から、今後同様の事態が起きても仕事を休まず継続できるよう、今年2月から重度訪問介護の利用日数を増やした。週の半分以上、ヘルパーが入ることで、いくらか負担は軽減されたという。
一方で、週の決まった時間に必ず家に他人がいて、寝間着姿を見られることもあり、戸惑うこともある。
「ヘルパーさんがいてくれて安心することもあれば、家族としてどう過ごせばいいか迷うことがあります」と、一美さんは話す。
夕食になると、奏多さんは好きな料理を何度もおかわりする。学校の様子を聞かれると「うん」「楽しい」と短く返事。食後はゲーム機のコントローラーを器用に操作し、夢中になって遊ぶ。

奏多さんには、中度の自閉症と知的障害がある。幼い頃から療育園に通い、現在は特別支援学校の中等部に在籍している。読み書きに困難があり、この1年でようやく自分の名前が読めるようになった。電話をかけることや時刻表を見ることなどは難しく、不安を感じやすい特性もある。今は、一美さんがそばにいないと熟睡できないという。
卒業後は、隣の市にある別の特別支援学校の高等部に進学する予定だ。しかし、入学直後から卒業後の進路をある程度見据えた面談が始まるため、早くから福祉事業所の見学を進める必要がある。
選択肢は就労系福祉サービスの利用か、生活介護事業所での日中活動が一般的だ。
奏多さんには何が向いているのか、どんなことができるのか。それを見極められていないことが、事業所選びの難しさにつながっている。

たかさんの病気のこともある。ALSの進行によって5年後、10年後の将来がどうなるのか、予測できないという課題がある。一美さんは、万一に備えるためにも、今のうちに動かなくてはならないと思っている。
「でも今は、毎日の生活で精いっぱい。他の保護者のように熱心に動けない」。事業所に見学を申し込み、支援者とやりとりするのが億劫(おっくう)だという。
奏多さんの場合は、自力での通所が難しいため、送迎車がある施設を探すことになる。「何ができるか」だけでなく、「どう通うか」も含めて考えなければならない。
たかさんが「いろいろな所に見学に行くしかないな」と口にすると、一美さんは「私が一人で行くしかないでしょう」と即答。本音を交えながら、互いを思い合う夫婦の会話が続く。
心配なのは進路だけではない。18歳を境に、医療や福祉制度の枠組みが切り替わる可能性がある。小児科から精神科への移行、担当医や相談員の交代など、環境の変化は家族にとっても心理的に負担がかかる。
「制度は複雑で、自分から聞かないと誰にも教えてもらえない。夫の重度訪問介護や、息子の移動支援の申請も、周りに相談してやっと分かった感じです」と一美さんは話していた。
今すぐには決まらない進路だが、奏多さんは思いやりのある性格に育っていると一美さんは語る。

奏多さんは、たかさんの介護を手伝っている。トイレの介助を手伝ったり、飲み物を運んだり、痰が絡まったときに容器を持ってきたり…。日々の暮らしの中で身に付いたのだという。
一人ではできないことが多くても、父親の支えになっている。「最近は周りと協力できるし、成長している部分がたくさんある」。一美さんもたかさんも、息子を頼りにしている。
【用語解説】筋萎縮性側索硬化症(ALS)
全身の筋肉が衰える病気。神経だけが障害を受け、体が徐々に動かなくなる一方、感覚や視力・聴力などは保たれる。公益財団法人難病医学研究財団が運営する難病情報センターによると、年間の新規患者数は人口10万人当たり約1~2.5人。進行を遅らせる薬はあるが、治療法は見つかっていない。
【用語解説】重度訪問介護
重度の肢体不自由や重度の知的障害・精神障害などにより常時介護を必要とする人が、在宅で暮らし続けるための障害福祉サービス。ホームヘルパーが自宅を訪問し、身体介護や家事・見守り、外出時における移動中の介護などの生活全般を支える。障害支援区分などを元に市町村が支給決定する。厚生労働省によると、2024年9月時点で約2万7千人が利用している。