2024年8月7日
※文化時報2024年6月14号の掲載記事です。
一般社団法人京都ジェンヌの会(京都市中京区)は、社会課題への取り組みを互助の精神で支え合っている団体だ。現在は「文化としての防災」の周知と普及に注力しており、賛同寺院の協力の下、子どもを対象とした防災絵本の読み聞かせ会も開催している。中村菜穂代表(40)が見つめる先にある「助け合い社会」とは何か。(佐々木雄嵩)
《「京都ジェンヌの会」は2012(平成24)年に発足。人がつながり、多様な文化や価値観を共有し、応援し合える環境づくりを進めてきた》
――立ち上げのいきさつを教えてください。
「皆が郷土の文化や伝統を通してアイデンティティーを知り、学び直す機会をつくれないかと考えた。女子会のように自然体で、文化体験に参加できる場として発足した」
「次第に活動の幅が広がり、会員が個人で取り組む社会活動の応援など、互助の機会も増えた。老若男女が集い助け合う場は、人間性の向上に大きくつながると確信した。性差や個性、価値観や文化を超えて多様性を生かせる場所を目指し、16年11月に法人化した」
――つながりの輪は寺院にも広がりました。
「新たな会員には寺族たちもいる。お寺の境内などを借り、地域住民や子どもたちを対象とした防災イベントを行う機会にも恵まれた。賛同寺院の協力は、現在注力している防災活動に色味を持たせた」
「寺院は昔から地域のよりどころとして大きな意味を持ってきたが、それは今も変わらない。寺院の呼び掛けにより、防災を巡る関係人口が増えたと実感している」
――海外留学で大きな影響を受けたそうですね。
「高校時代、交換留学生としてオーストラリアに渡った。異文化に身を置き、異なる風土に触れる中で、アイデンティティーという言葉を知った。伝統文化が身近にある京都で生まれ育ったが、それらの価値や誇りに気付いていなかった」
「留学は日本という郷土を客観的に考える機会となった。帰国後は地域の営みや関係性の中で、自然と消防団や少年補導学生班に身を置いた。さまざまな世代と交流し、同世代との架け橋として地域貢献することがライフワークとなった。それが今に生きている」
《災害時に必要な情報を書き込める京都市の「KYOTOわたしの防災ノート」の制作に参画したことが、活動を大きく前進させた》
――防災ノートの制作が転機になりました。
「学生時代に参加していた地区消防団から声を掛けられ、女性のための防災ハンドブック作成に取り組んだ。14年3月に発行され、市からの依頼は完了したが、普及させるためには周知が必要だと強く感じた」
「災害は多くの命を奪い、築き上げてきた伝統や文化も破壊してしまう。防災とは、犠牲者の命の記憶と被災者の伝承を、生き延びる知恵に変えること。命を守ることは、連綿と受け継がれてきた伝統や文化、営みを守ることと同じだと気付かされた。このとき、京都ジェンヌの会が注力すべき取り組みの方向性が見えた」
――防災を地域文化として根付かせたい、という方向性ですね。
「防災活動を進める中で、災害リスクは地域によって異なることが分かった。『一つの防災』を全国に広げるのではなく、世代、性別、環境などで異なった備えが必要。防災意識を押し付けるのではなく、意義が伝わるアプローチも大切だ。周知によって、防災が当たり前の教育として地域に根付くよう働きかけている」
「防災に取り組むことは、『全ての命に同等の価値があり、かけがえのないものである』と気付くことでもある。等しく大切な命だが、必要な防災はそれぞれ異なる。地域社会で防災に取り組むことは、価値観の相違点を共有し、多様性を認めることから始まる。それが、まち全体の結びつきの強化につながると信じている」
――大事にしている言葉があると聞きました。
「どんな時も『おかげさま』と『お互いさま』の心を大切にしたいと思っている。人はさまざまな場面で、多くの人とつながりを持つ。損得の足し引きではなく、関係性の掛け算が理想だ」
「そして、生きとし生けるものへの『慈しみ』だ。人は作為のないあるがままの自然界で生かされ、互いに恵み・恵まれて生きている。助け合い、その感謝を還元するのが人生ではないか」
――仏教的価値観に近いものがあります。
「浄土宗檀王法林寺(京都市左京区)が運営に携わるだん王保育園に通った経験が大きい。のの様への感謝と祈りが身近にあった。京都にはさまざまな宗派の本山があり、生活の端々に先人の教えがあるように感じる。知らぬ間に、営みの中で身にしみついている部分もあるだろう」
――活動とは別に仕事をされていますね。
「京都ジェンヌの会はボランティアの市民活動。なりわいは居住支援法人=用語解説=の担当者として、一般の不動産業者では断られる要配慮者や出所者の入居サポートを行っている。地域のNPO法人やケアプランナーと一緒に、住まいの福祉環境を整える手伝いをしている」
――今後は京都ジェンヌの会に軸足を置きますか。
「どちらか一方にという考えはない。こだわるけどとらわれない気持ちで、仕事と活動を両立し、地域参画を提案していきたい。いまは『防災×福祉』で、さまざまな立場や環境にいる人々を包括的にサポートできる事業展開を試みている。セクターを超えた連携が必要。全ての人が参画できる、真の助け合い社会の実現を描いている」
「思いやりと共感は、社会の分断を取り除く。互いの多様性を認め学び合うことは、誰もが生きやすい社会づくりにつながるはずだ。今後も多くの人々と経験や価値観を共有し、個々のパーソナリティーが生かせる仕事と活動を行いたい」
【用語解説】居住支援法人
低所得者や高齢者、障害者といった要配慮者を対象に、民間の賃貸住宅へのスムーズな入居を図る法人。家賃債務保証や円滑な入居に係る住宅情報の提供・相談、見守りなどの生活支援業務を行う。2017(平成29)年の改正住宅セーフティネット法に基づき、都道府県が指定する。一般社団法人全国居住支援法人協議会に加盟している団体数は、24年3月末現在で315団体。