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インタビュー

橋渡しインタビュー

自閉症の息子と音楽のある生活 小高祐美さん

2024年8月23日

 埼玉県所沢市の小高祐美さん(39)は9歳の息子を育てるシングルマザー。長年、音楽療法士として活躍し、現在は重度の障害がある未就学児たちに、音楽を通して発達の援助を行っている。息子は自閉スペクトラム症(ASD)=用語解説=があり、今年4月に支援学級から普通学級に転入して新しい学校生活を送っている。生活は山あり谷ありだが、いつも気取らず自然体で過ごす小高さん。彼女を前向きにさせ、暮らしを支えていたのは、他でもない音楽だった。(飯塚まりな)

 小高さんと初めて会ったのは今年3月、福祉仏教for beleiveでおなじみの音楽ユニット「たか&ゆうき」のライブだった。「世界自閉症啓発デー・発達障害啓発週間Light it up blue Tokorozawa 2024」のライトアップイベントで、たか&ゆうきと一緒に出演していた。

広がる音楽、知ってもらう障害 たか&ゆうき

 ステージの近くで、小高さんの息子は笑顔で駆け回っており、終始ご機嫌な様子だった。演奏後に声をかけると、小高さんは「親子2人だけの暮らしは大変だけど、周りの人に助けられてきました」と静かにほほ笑んだ。後日、連絡を取り、取材に応じてもらった。

小高さん親子

 小高さんは独身時代から18年間、音楽療法士をなりわいとしてきた。現在は、児童発達支援事業と居宅訪問で三つの市にある事業所や自宅を訪問し、一人一人の子どもに合わせた音楽療法を行っている。

 毎回工夫して、自前の太鼓やマラカスなどの楽器を車に積み、子どもたちの元へ向かう。呼吸器を付けた寝たきりの子から、元気に走り回る子まで、障害や病気はさまざまだという。

 音楽療法では、楽器の音や触り心地、リズムを感じ、体を揺らしたり手をたたいたりするよう促すことで、興味や関心を引き出していく。親からは「子どもが音楽に触れて、感性を養えたら」という声も多いそうだ。

 数人のグループで行う場合は、子どもたち同士で「貸して」「どうぞ」が言えるようにしていく。うまく発語ができない子の場合は、トントンと手をたたいて合図を送り、自分の気持ちを相手に伝えるなど、コミュニケーションを学ぶ場にもなっている。

呼吸器を必要とする子どもにピアノを弾いて、音楽療法を行う小高さん

 小高さん自身も、息子を連れて通ったことがきっかけで、現在の職場に巡り合った。仕事を楽しいと感じることは多いが、目の前の子どもたち全員が当たり前のように明日を迎えられるわけではない。

 「子どもたちにとって大切な今という一瞬に、自分が携われていることがありがたいですし、本気で向き合っています」と、言葉に力を込める。

音楽に助けられて

 1985(昭和60)年生まれ。茨城県常陸大宮市出身。5歳からピアノを習い、絵を描くことが好きで、学生時代は漫画を描くことに夢中だった。自信が持てない性格だったが、小さいころから人を笑わせたいというひょうきんな一面もあった。

 高校卒業後は経理事務の仕事に就職。地元で音楽療法士の資格が取れる専門学校があると知り、通い始めた。資格所得後は障害者の支援員を行いながら音楽療法士として働き、結婚を機に埼玉県に移り住んだ。

 妊娠してからの小高さんは心身に不調をきたし、パニック障害やメニエール病を発症。出産後は息子がASDと診断され、4歳半の時には離婚を経験した。茨城から移住してきた母親と一緒に暮らし始めたものの、闘病生活や家族との死別など、激動の日々を送ってきた。

 息子は小学2年まで支援学級に通っていたが、人間関係がうまくいかず、3年からは保育園時代からの友人が通う小学校へ転校し、普通学級に通い始めた。

 今でもクラスメートとのやり取りには難があり、距離感が分からないため、ストレスを抱えることが多いという。その一方、近所の児童たちと一緒に登校し、家に帰れば自分でドアの鍵を開けられるなど、大きな成長ぶりも感じている。

 学校から笑顔で友達と下校したかと思えば、小高さんの顔を見た途端に泣き出すこともある。その逆もあって、日々感情の起伏は激しく、学校を休むことも少なくない。

これからはライブ活動もしたいとのこと

 「今でもどの選択が正しかったかは分からない」。息子が安心して過ごせる場所はどこなのか、模索中だ。

 「親子2人きりで過ごすときはしんどいですし、仕事で他の子をお世話している方がいいと思うこともあります。でも、私たちは日々の暮らしを楽しみたいし、周りの人たちと笑顔で過ごせたらと願っています」

 そんな小高さんだが、SNSではありのままの親子の姿を頻繁に投稿。周りから「いつもルンルンしてるよね」と褒められたことで、ユーチューブのタイトルに「るんるんママゆみさんの音楽生活」と名付けて、ピアノ演奏や幼児向け音楽の弾き語りを配信している。

 動画に映る観葉植物がたくさん置かれた自宅は、小高さんのセンスが光り、雰囲気の良い空間づくりを意識しているのが感じられる。その光景は、見る人にとても明るい印象を与えている。

 歌えば心がスッキリし、好きな曲を弾いて音楽を心から楽しむことで、何度も自分を奮い立たせてきたという。根底には、常に「心地いい音を届け、人の温もりや優しさを感じてほしい」という思いがある。

 「世の中には自ら命を絶つ子どももいますが、音楽に触れて、何かが心に残れば、生きられるかもしれない。大切なことを忘れないでほしいのです」

 今後は、介護施設でも音楽療法を行う予定だ。音楽と持ち前の明るさで周りを巻き込み、生きる希望を届けてくれると期待したい。

【用語解説】自閉スペクトラム症(ASD)

 コミュニケーションや対人関係の困難と、特定のものや行動への強いこだわり、限られた興味などの特徴がみられる発達障害。かつては自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー症候群などの名称で呼ばれていたが、アメリカ精神医学会が2013年に発表した精神疾患の診断基準(DSM)第5版からは自閉スペクトラム症に統一された。約100人に1人いるとされる。

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