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お寺と福祉の情報局

ALS患者とカメラマンの対話 東京で写真展

2025年4月5日

 筋萎縮性側索硬化症筋萎縮性側索硬化症(ALS)=用語解説=の患者のありのままを写し出す写真展「Face・ALS ~生きる勇気~」が、東京・有楽町の東京交通会館で開かれた。一般社団法人日本ALS協会が主催し、2005(平成17)年から20年間にわたってフォトグラファーの渡邉肇さんが機関誌「JALSA」のグラビア用に撮影したモノクロ写真351枚を展示した。「写真を通して、命の尊厳や生きることへの感謝が募る」。渡邉さんはそう話す。(飯塚まりな)

 写真展は1月19〜25日に開催された。全国で療養する患者38人の日常の一コマが切り取られ、カメラに目線を送ってほほ笑む人や、呼吸器を付けて介助を受ける姿、在宅介護で寄り添う家族の様子を見ることができた。

絵巻物のように展示された会場
絵巻物のように展示された会場

 初日の1月19日はレセプションがあり、渡邉さんと機関誌の編集者、患者2人が登壇。撮影当時から現在までの変化や、患者の介護に不可欠な「重度訪問介護」の人材不足などについて、トークセッションが行われた。

 レセプション後、日本ALS協会の会員たちがメディアの取材に応じた。同協会では、患者・家族・遺族を中心に、医療の専門職や介護関係者、行政職員なども会員に加わっている。

渡邉肇さん
渡邉肇さん

 主催者の一人、金澤公明さんがメディアの前に立った。1986(昭和61)年、当時大分県にいた兄がALSを発症。親族にさえ病名を告げずにいたという。

 「兄は家族を抱えて先の見えない不安な日々を送ってきた。これからも患者を救う社会が必要だ」と力説した。金澤さんの表情から、兄を失った悲しみが今も消えていないことが伝わってきた。

「経験を、他の患者のために」

 会場でじっと写真を見て目を潤ませる女性がいた。埼玉県在住の神澤たか子さん。ALS患者の夫、光明さんを15年間の在宅介護の末に看取(みと)った。

 発症は2001(平成13)年、働き盛りだった光明さんが、突然右手に脱力を感じたことが始まりだった。

 現代のようにスマートフォンもなく、今より情報が少ない中、ケアマネジャーと相談し介護用ベッドやスライディングボードを用意した。写真には、寝ている光明さんをベッドから移動させる様子が写っている。

 診断を受けたのは光明さんが51歳の時。たか子さんは自動車教習所へ通い始めた。「50代から運転を始めるのは大変だった。でも、私が運転できなければ身動きが取れなくなる」。免許取得後は光明さんを乗せ、伊豆旅行に行くなど、できる範囲で一緒に出かけた。

夫が掲載された機関誌は今でも宝物
夫が掲載された機関誌は今でも宝物

 子どもはすでに独立しており、たか子さんがほぼ1人で介護を行った。発症から7年後に気管切開を受け、光明さんは声を失ったが、泣き言一つ言わずに運命を受け入れたという。

 2016年、光明さんはたか子さんに見守られながら亡くなったが、妻への遺言として「この経験を、今後は他の患者のために尽くしてほしい」と書きのこしたという。

 たか子さんは「夫から宿題をもらった」と、現在は近所で開かれる患者会を手伝っている。「ALSは、この世の誰にもなってほしくない病気」と断言した。

笑顔を引き出す

 患者の表情や動きだけでなく、ベッド周りの風景なども目に入る。

 病気が進行すれば、介護用ベッドや車いす以外にも医療機器が設置され、患者の周りには自然と命をつなぐために必要な物が増えていく。その分、撮影者の渡邉さんは、医療機器にぶつかったりチューブを踏んだりしないよう細心の注意をはらい、さまざまな角度からカメラを構えたという。

赤ん坊にミルクを飲ませるALS患者の姿
赤ん坊にミルクを飲ませるALS患者の姿

 写真に写る全員が家族と暮らしているわけではない。独居の人、病院や施設に1人で入院・入所し、治療や介護を受けながら生活している人もいた。

 また、ふすまのシミや半開きの電子レンジ、ペットボトルに挿さったストローなど、一瞬見逃してしまいそうな部分にも介護のリアルさが感じられた。モノクロだからこそ、見る側の想像力が膨らむ。

 渡邉さんは撮影に行くたびに、短い撮影時間で何を残せるのか、使命感を持って挑んでいる。患者と話をしながら撮影していると、ふとした瞬間に気持ちが込み上げてくることもある。感情移入しすぎないよう、気を引き締めてシャッターを切ることに専念したという。

 「僕が患者さんと向き合うのは、ほんの一瞬。せっかく頂いた貴重な時間に、笑顔を撮るのは必須だった。患者さんたちの表情からは、強さを感じた」

 日本ALS協会は今回の写真展を皮切りに、ALSの啓発を今後も積極的に行っていきたいという。どんな会場の規模にも合わせて巡回展示できるよう、パネルはあえて時系列で作成せず、2005年から現在に至るまでの姿をランダムに当てはめた。

パネルは巡回展示を視野に作成された
パネルは巡回展示を視野に作成された

 写真から患者の思いや生きる姿が伝わってきた今回の写真展。「わたしたちの地元でも開いてほしい」「パネルを見たい」。日本ALS協会は、そうした声を待っている。

【用語解説】筋萎縮性側索硬化症(ALS)

全身の筋肉が衰える病気。神経だけが障害を受け、体が徐々に動かなくなる一方、感覚や視力・聴力などは保たれる。公益財団法人難病医学研究財団が運営する難病情報センターによると、年間の新規患者数は人口10万人当たり約1~2.5人。進行を遅らせる薬はあるが、治療法は見つかっていない。

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