2025年1月21日
※文化時報2024年11月5日号の掲載記事です。
東京都板橋区の子ども食堂=用語解説=「まえのふれあいこども食堂」が、街の活性化に貢献している。昔からの住民や商店主らに加え、近くにキャンパスがある浄土宗系の淑徳大学(山口光治学長)の学生も運営に参加。地元の浄土真宗単立寺院、昌玲寺の藤村行一住職が扇の要となり、さまざまな大人たちが活発に交流している。東京の閑静な住宅街で、新しい形の地域社会が育まれつつある。(山根陽一)
10月15日夕。板橋区立前野ホールを、子どもと保護者ら約60人が続々と訪れた。月に1度の「まえのふれあいこども食堂」の時間だ。
会場は「食」「学」「遊」の三つのテーマごとに部屋が分かれている。「食」の部屋では、調理師で民生委員の菅原阿美子さんが腕を振るったマーボー豆腐と特製デザートが提供された。「学」の部屋では淑徳大学の学生たちが宿題を教え、「遊」の部屋では子どもたちがハロウィーンのお菓子を入れる容器を折り紙で作っていた。時間をずらして順番に各部屋を訪れる仕組みだ。
藤村住職が立ち上げた地域団体「ふれあいまえのっ子の会」が主催し、淑徳大学地域共生センターが協力しているが、運営に携わる人たちの顔触れは元区議会議員、自治会会長、近隣の小学校関係者、地元の社会福祉協議会の職員、商店主…と多彩だ。
昔から地元で暮らす人と集合住宅などに移り住んだ人をつなぐ役割も果たしているといい、藤村住職は「子ども食堂を通じて街を見つめ直し、町内会を受け継ぐ次の世代をつくりたい」と話す。
藤村住職はかつて「自分の寺は地域に根差していないのではないか」と疑問を持ち、高齢者向けの体操教室や育児相談などに取り組んでいた。小学校のPTA会長や民生委員・児童委員としての活動も行い、さまざまな人々とつながった。
子ども食堂を始めたのは昨年夏。最初は手探りだったが、ふたを開けてみるとフードバンク向けの支援を受けられた上に、商店街から野菜など、淑徳大学から備品類を提供してもらえた。「地域住民を巻き込みながら、多くの世代が一体感を持ってほしい」という思いが、少しずつ形になっていった。
近年、地域の自治会や町内会から現役世代が疎遠になり、活動が衰退化していく傾向がみられる。そうした縁を結び直せるのが、子ども食堂ではないかと考えている。
「子ども食堂は貧困世帯を救うだけではない。共働き世帯が子どもと楽しみ、知り合いが増えれば、街を好きになる。地域の知恵を結集して続けていけば、街はきっと変わる」。藤村住職は力を込める。
子ども食堂の三つの部屋で行う内容の多くは、淑徳大学の学生たちが考案している。大学の授業とは切り離した課外活動で、手づくり感あふれる自由な発想のプログラムが特長だ。
同大学地域共生センターのコーディネーター、足立陽子さんは「在学する4年間は学生も地域の当事者。街の一員という気持ちで、楽しみながら子どもたちと接してほしい」と話す。
将来は声優を目指している人文学部表現学科2年の原桃花さんは「子どもの気持ちを深く知りたいと思って参加している。楽しいし、やりがいがある」。同学部人間科学科2年の小川大智さんは「子どもからシニア世代まで、多くの人がいるのでいい経験になっている。話すのが苦手なので、コミュニケーション能力を高めたい」と笑顔を見せた。
元区議会議員で保護司の茂野善之さんは「淑徳大学の学生がここまでやってくれるとは思わなかった。今の若者のイメージが変わった」と話し、藤村住職も「学生をはじめ、サポートしてくださる方々と相談した上で、開催回数や規模を検討したい」と、次なる展開に意欲を燃やしている。
【用語解説】子ども食堂
子どもが一人で行ける無料または低額の食堂。困窮家庭やひとり親世帯を支援する活動として始まり、居場所づくりや学習支援、地域コミュニティーを形成する取り組みとしても注目される。認定NPO法人「全国こども食堂支援センター・むすびえ」の2023年の調査では、全国に少なくとも9132カ所あり、宗教施設も開設している。