2025年4月4日
※文化時報2025年3月25日号の掲載記事です。
大切な人やペットとの別れなどで経験するグリーフ(悲嘆)について知ってもらおうと、愛知県岡崎市の真宗大谷派本光寺で4月12日、「おかざきグリーフケアマルシェin本光寺」(実行委員会主催)が開かれる。稲前恵文住職(57)と訪問看護師の田中美穂さん(57)らによる初の企画で、地元の地域包括支援センター=用語解説=や社会福祉協議会、さらには市役所も参加。グリーフケアとマルシェという意外な取り合わせで、お寺ににぎわいと居場所をつくる。(主筆 小野木康雄)
会場は境内一円。本堂ではグリーフケアや介護・看取(みと)りへの備え、ペットロスに関する講演と、ギターやサックスなどの演奏が行われる。
マルシェにはキッチンカーを含む12店舗が出店する予定。元がん患者の女性店主が話し相手になりながら調理するおにぎり店や、地元の障害者施設によるシフォンケーキとクッキーの店などが並ぶ。
グリーフケアマルシェは元々、近親者との死別を経験した人でつくる市民団体が、愛知県豊橋市の葬儀会館で行っていた。メンバーの一人と田中さんが知り合い、岡崎市でもやりたいと意気投合。昨年12月、稲前住職に本光寺での開催を持ち掛けた。
これに大きく影響したのが、本光寺が2023年から隔月で開いている「親あるあいだの語らいカフェ」。障害のある子やひきこもりの当事者が、親から面倒を見てもらえなくなった後にどう生きていくか―という「親なきあと」の問題について、関心のある人たちが思いを分かち合う催しだ。
語らいカフェに参加している田中さんと「岡崎市南部地域福祉センター地域包括支援センター」の職員が、介護を終えた家族を対象にした交流会を開くようになり、そこへグリーフケアマルシェの関係者も訪れたことが縁となった。
稲前住職にとっては、語らいカフェを通じて気心の知れた信頼できる仲間からの申し出だった上に、自身もグリーフケアを学ぼうとする矢先だったため、意義ある催しだと直感。「それはいいですね」と即答し、準備を進めてきた。
真宗大谷派は、22年に僧侶向けの教材『真宗僧侶とグリーフ』を発刊するなど、グリーフケアに力を入れている。稲前住職も身近な人を亡くした人たちが思いを話せる集いを、いつかはお寺で開きたいと願っていたものの、自分一人では荷が重いと感じていたという。
一方、田中さんにとって、お寺は地域の中心にあって誰もが知っている場所。「いつも開いていて、いつでも関わってくださる。死別に限らず、いろいろな喪失感を抱えた人たちの居場所になり得る」と考えた。
今回のグリーフケアマルシェでは、お寺ならではの体験コーナーを設ける。「大切な方への手紙」では、亡くなった人やペットに宛てた手紙を書き、封をしたまま専用のポストに投函。手紙は後日、仏前に供えられ、稲前住職が法要とお焚(た)き上げを行う。
また、一般財団法人お寺と教会の親なきあと相談室(京都市下京区)も参加し、語らいカフェを開く。
稲前住職は「自分は一人でない、お寺に来たら必ず受け止めてもらえる、という気付きとつながりの場になれば」。田中さんは「地域の子どもから大人まで関心を持ってもらえるマルシェにしたい。グリーフについて知ってもらえるよう、1回だけで終わらせずに続けたい」と話している。
◇
おかざきグリーフケアマルシェin本光寺は4月12日午前10時~午後3時に開催。雨天決行。問い合わせは本光寺内の実行委員会事務局(0564―43―2216)。
【用語解説】地域包括支援センター
介護や医療、保健、福祉などの側面から高齢者を支える「総合相談窓口」。保健師や社会福祉士、ケアマネジャーなどの専門職員が、介護や介護予防、保健福祉の各サービス、日常生活支援の相談に連携して応じる。設置主体は各市町村だが、大半は社会福祉法人や医療法人、民間企業などに委託し運営されている。