2025年5月31日
※文化時報2025年2月21日号の掲載記事です。
心の中の課題を言語化することで解決に導くオープンダイアローグ(OD)=用語解説=を体験する「対話之文化まつり」が9日、浄土宗総本山知恩院和順会館(京都市東山区)で開かれた。それぞれが話したいことを語り、耳を傾けるイベント。同心円状に座った参加者50人余りが、精神科医でODを実践する森川すいめい医師に導かれながら対話を重ね、互いの信頼感を高める手法を体験した。(大橋学修)
イベントを主催したのは、廃材とビールケースで作ったベンチ「置きベン」で地域コミュニティーを再生する活動に取り組む小畑あきらさん(64)。2022年から毎年開催している。
ODでは、話し手と傾聴者が行う対話を聞いた第三者が、対話についての所感を傾聴者に向かって話す。それを聞いた話し手が心境や自己理解を変化させ、さらに対話を深めていく。
メインイベントの「聞いて感じる大円対話会」では、50人余りが3重の輪になって座り、マイクを持った1人の発言に、他の参加者がじっと耳を傾けた。森川医師が第三者役を務めて所感を語り、次に語りたい人が挙手して語る―という対話を繰り返した。
最初はなかなか手が挙がらなかったが、話題が進むにつれ話したい人が増えはじめ、9割以上の人がマイクを握った。結局3時間の予定を1時間延長し、約4時間行われた。
森川医師は「自ら話したいと思うように心境が変わったという発言があった。大人数であっても互いの信頼関係がつくられた」と振り返った。
「対話之文化まつり」では、ODに関心のある10組が活動展示を行った。死について語り合う「デスカフェ」を行っている僧侶は、余命わずかと宣告された時に何を大切にしたいかを話し合うカードゲーム「もしバナゲーム」の体験会を実施。高齢者福祉施設などを対象に移動図書館を運営する人が本箱を並べたほか、「置きベン」も実際に置かれて参加者らが語り合う姿も見られた。
主催者側は、事前に出展者やコーナーの配置を決めず、当日集まった人が話し合いで決めた。会場づくりの段階から対話することを促すアイデアだ。出展者同士が交流しやすくなり、互いのコーナーを頻繁に行き来する効果が生まれた。
小畑さんは「森川医師から一方的に講演を聞くのでなく、実際にODや対話を体験してもらうイベントにしたかった」と話していた。
【用語解説】オープンダイアローグ(OD)
当事者と関係者の複数人でその人の困り事について語り合い、言語化することによって問題解決に導く傾聴手法。統合失調症のある人をケアする手法としてフィンランドで生まれた。2006年に同国で行った調査では、統合失調症の発症後5年で約8割が就労・就学し、再発率が減少する効果があったという。