2025年6月1日
※文化時報2025年2月25日号の掲載記事です。
小学生が高校生のお姉さん・お兄さんに宿題や勉強を見てもらえる「まえの寺子屋」を、浄土真宗単立の昌玲寺(藤村行一住職、東京都板橋区)が開いている。子ども食堂=用語解説=やフードドライブ=用語解説=を行ううち、若い世代にも社会貢献に関わってもらおうと、浄土宗系の私立淑徳高校(安居直樹校長、同区)の教員に声を掛けて実現した。藤村住職は「高校生も地域社会の一員。アットホームなお寺の空間で、教える楽しさや子どもたちの実情を知ってほしい」と語る。(山根陽一)
1月29日、授業を終えた淑徳高校の1、2年生7人が昌玲寺にやって来た。家庭教師の経験はないが、小学生の勉強を見るのが楽しみだという。
この日の「まえの寺子屋」には板橋区立北前野小学校の1~5年生6人が参加。最初は漢字の書き取りや算数の宿題をしていたが、やがて今風のなぞなぞやゲームに「生徒」も「先生」も熱中しはじめた。
寺子屋の復活は、小学校のPTA会長や民生委員・児童委員としての活動歴もある藤村住職の念願だった。子ども食堂やフードドライブで居場所づくりや生活支援を行うのも重要だが、学校の勉強についていけない子どもたちの学習サポートも大切だと考える。
「江戸時代、無料で勉強を教えていた寺子屋の現代版。多忙な教師の補助になるし、経済的な理由で塾に通えない子どものためにもなる」。教えるのが高校生というのがポイントで「大人が上から目線で教えるよりも、ほぼ同じ感覚の高校生だから気軽に接することができる」と指摘する。
先生役を務める淑徳高生は、全員が部活動の「社会福祉部」に所属している。同部は人気のある文化部の一つで、常時80人程度が在籍。子ども食堂や赤い羽根共同募金などのボランティア活動を行っている。
顧問を務める齊藤文則教諭は「ボランティア活動は『自分にできることは何か』を考える良い機会。将来を見通して入部する生徒は多い」とした上で「行政やさまざまな団体との交流の中で、横のつながりができることも大きい」と話す。
部員たちは、歌手のさだまさしさんが設立した公益財団法人「風に立つライオン基金」が主催する「高校生ボランティア・アワード」にも参加。同じ志を持つ全国の高校生と交流し、地方の社会問題を知る機会を得た。
2年生のある女子部員は1年生のとき、留学先のカナダの教会で食事を提供するボランティアを見て、自分もやりたくなったという。手話を習得済みで「これからもいろいろな経験を積み、将来は起業したい」と抱負を語った。
寺子屋を始めるとき、藤村住職が最初に声を掛けたのが、同部の笛木満美子副顧問。板橋区が主催する「シニアの絵本読み聞かせ講座」で意気投合した。
笛木副顧問は、高校生が先生役となって教えるという寺子屋の運営方針にも賛同。子どもに何かを教えることで高校生たちに自己肯定感を持ってもらうとともに、家庭環境に恵まれない子どもたちがいる現実を知ってほしい、と考えた。
「私自身は『駄菓子屋のおばちゃん』の感覚で一緒に楽しみながら見守っていきたい」と語る。
同じく「まえの寺子屋」に携わる入西貴彦副顧問は、浄土宗得生院(東京都練馬区)の僧侶であり、「淑徳の時間」という授業で仏教の情操教育を担当している。
淑徳高校が属する大乗淑徳学園の理念は、大乗仏教精神に基づく人と社会の共生だ。「学園に属する多くの子どもたちには、利他の精神や他人を敬う福祉の心が宿っている。ボランティア活動で得た経験は、人生のどこかで生かすことができる」と指摘する。
浄土真宗と浄土宗が協働する側面もある「まえの寺子屋」。藤村住職は宗派に全くこだわっておらず、「地域で子どもを育み、全ての人が助け合える素地ができれば、それでいい」と語った。
【用語解説】子ども食堂
子どもが一人で行ける無料または低額の食堂。困窮家庭やひとり親世帯を支援する活動として始まり、居場所づくりや学習支援、地域コミュニティーを形成する取り組みとしても注目される。認定NPO法人「全国こども食堂支援センター・むすびえ」の2024年の調査では、全国に少なくとも1万867カ所あり、宗教施設も開設している。
【用語解説】フードドライブ
家庭で余った食品を捨てないで持ち寄り、福祉施設や貧困者らに寄付する活動。発祥とされる米国などでは食品ロスを減らす取り組みとして広まっている。売り物にならない食品を引き取って必要な所に届けるフードバンクや、無料配布するフードパントリーなどを通して行う。