2025年6月22日
※文化時報2025年3月18日号の掲載記事です。
地域社会でさまざまな取り組みが行われている居場所づくりについて考えるトークライブ「必要なのは『居場所』ですか?」が9日、大阪府岸和田市の南海浪切ホールで開かれた。一般社団法人officeドーナツトーク(大阪市北区)の奥田紗穂さんと、関西学院大学教授で教育学者の桜井智恵子さんが登壇。約20人が参加し、居場所づくりを巡る根本的な問題について考えた。(主筆 小野木康雄)
合同会社エンパワメント&アドボカシーサービス・ハルジオン(岸和田市)が主催した。同社の代表社員で社会福祉士・公認心理師の渡邊充佳さんが、子ども・子育て支援に取り組む中で親交のあった2人を招いた。
最初に登壇した奥田さんの所属するofficeドーナツトークは、大阪府教育庁からの委託事業として、府立西成高校(大阪市西成区)などで中退や不登校を予防する生徒のための居場所カフェを、教室を借りて運営している。
奥田さんは、高校生がドロップアウトすると個人の責任とされ、抱えている問題が長期化する懸念があると指摘。校内の居場所カフェが、支援を求める生徒に出会うためのアウトリーチの場となっていると伝えた。
運営に際して心掛けていることとしては、自由があること▽応答性があること▽歴史を聞けること―を挙げた。そのためには、結論や答えをすぐ出さずに本人の気持ちを聴く「傾聴」が必要だと強調。一方で傾聴には「話したくないトラウマまで引き出してしまう暴力性がついて回る」とも述べた。
また、生徒がこれまで経験してきた被害や差別を、信頼感のなさを自覚した大人が受け止めることで、権利擁護につなげることが重要だと説いた。同じサービスを同じ場所で提供し続けることの大切さも示した。
続いて登壇した桜井さんは「社会に適合するための学習支援を行う居場所は、誰が得をするのか」と問題提起。近代社会がまず人を排除し、その後に包摂する構造を持っていることを、前提として伝えた。
その上で、1980年代以降の規制緩和によって、NPO法人などの支援団体が積極的に活用され、公共サービスの担い手とされてきた経緯を説明。「順応する子を支援するのでなく、反論する子を育てる居場所や学校が必要だ」と説いた。
また、個別救済よりも社会改善の重要性が増しているとして「人材づくりを背景に、社会は支援に依存している。子どもの権利を考えるなら、個別の問題だけでなく、置かれている環境に目を向けよう」と呼び掛けた。
質疑応答では「居場所づくりに携わる人はどのように行動すべきか」との質問があり、桜井さんは「子どもの困り事から、社会課題を整理していくこと。それについて仲間や周囲と話し、共有すること」と指摘した。
司会を務めた渡邊さんは結びとして、自分で地域に居場所をつくっていった重度の知的障害のある人の事例を紹介。「場を用意することで、居場所を奪っていないか。支援者は支援や管理をしたがるが、機会が妨げられなければ人は生きていけるのではないか」と問い掛けた。