2025年8月28日
※文化時報2025年6月3日号の掲載記事です。
「絵本のお坊さん」として約30年にわたり絵本の読み聞かせを行ってきた浄土真宗本願寺派源光寺(広島県三次市)の福間玄猷住職(53)には、人生を変えた原点ともいえる絵本がある。『平山郁夫のお釈迦(しゃか)さまの生涯』(博雅堂出版)だ。学生時代に手に取り、今でも好んで法話や朗読に使っているが、時期がくれば在庫が廃棄処分される可能性があるといい、福間住職は「多くの方々が『人生の宝物』として受け継がれることを切に願っている」と語る。(坂本由理)
福間住職と同書との出会いは、大谷大学の学生だった30年以上前。シルクロードを題材にした絵で知られる日本画家・平山郁夫さんの仏教画に、法相宗大本山薬師寺(奈良市)元管主の高田好胤さんが文章を書いており、画集といってもいいほどのクオリティーの高さだった。
平山さんは、1945(昭和20)年に広島で被爆し、九死に一生を得た体験から、一連の作品を描いたという。
福間住職は「特に素晴らしいのはお釈迦様入滅の絵。神々しく、ありがたい」と話し、本に添えられた編集者の西村和子さんの言葉にも感銘を受けた。

その中で西村さんは、キリスト教関係の児童書の豊富さとは対照的に、子ども向け仏教書が皆無に等しいことや、クリスマスは祝うのにお釈迦様の誕生日は知らない人が多いことを懸念していた。
福間住職は絵本の読み聞かせを本格的に始めてから、子ども会活動だけでなく、通夜・法事などでもこの絵本を披露。手あかがつくほど読み続けて来たのに、読むたびに新たな発見があるという。
「絵本は子どもに学びを、大人に人生の振り返りと気付きを与えてくれる」と福間住職。96(平成8)年に長男が誕生したのを機に絵本の読み聞かせを始め、小学校のPTA活動をきっかけに本腰を入れるようになった。
小学校では「源光寺の住職です」と自己紹介するより「絵本のお坊さんです」と言った方が、子どもたちに親しまれ、覚えてもらえるという。今ではすっかりその別名が定着している。
小学校では、ただ本を読むだけに終わらせず、前後に話す時間を設けている。絵本は2〜3冊持って行き、どの本を読んでほしいか児童に選んでもらうなど、一方通行にならないように気を配っている。
楽しい絵本だけでなく、つらさや苦しさを含む物語もあえて選択肢に入れる。絵本は人生を知る手助けになるからだ。今は理解できなくても、大人になって〝再会〟したとき、意味に気付いてもらうことを期待している。
先日、6年生が選んだのは「アンパンマン」。過去にも別の保護者が読み聞かせたことはあったが、良書は何度でも選ばれるのだと知った。年齢が上がった分、受け止め方が変化し、児童らの成長を感じられたのもうれしかったという。
昨年、『平山郁夫のお釈迦さまの生涯』を巡って博雅堂出版から連絡があった。福間住職が問い合わせていたことに対する返事だったのだが、このとき『平山郁夫のお釈迦さまの生涯』と同じシリーズの『平山郁夫と玄奘三蔵』が合わせて2千冊ほど在庫があること、ただしある時期が来ると廃棄処分になる可能性があることを知った。

「これほど素晴らしい絵本が廃棄処分になるのは、何としても避けたい」と考えた福間住職は、会員制交流サイト「フェイスブック」などを通して積極的に紹介するようになった。
博雅堂出版は、教育者で美術専門家でもある編集者の西村さんら女性3人が、「子どもが本物の芸術に気軽に触れられる機会をつくりたい」と願って1987(昭和62)年に立ち上げた。
西村さんの次男、工藤茂樹さんは「『平山郁夫のお釈迦さまの生涯』は、母がライフワークとして品質にこだわり、利益度外視で作った本。平山先生の素晴らしい絵と、仏教の教えを身近に感じてほしい」と話している。
B4変型判72ページ、作品点数36点。2912円(税別)。問い合わせは博雅堂出版(03―3950―8699)。