2026年3月6日
※文化時報2026年1月30日号の掲載記事です。
大阪府高石市の浄土宗大王寺が、介護者カフェ=用語解説=を開設して4年が過ぎた。お寺でお勤めをしているだけの僧侶の在り方に疑問を感じていた佐藤玄徳住職(44)が、お参りだけではなくもっと檀家に関わって中身のある話をしたいと模索し、介護者カフェに活路を見いだした。「ご縁カフェ」と名付け、介護福祉士の資格を持つ妻の明子さん(45)と共に、夫婦二人三脚で開催を重ねている。(坂本由理)

佐藤住職は佛教大学に在学中、介護を学び、高齢者施設の見学や手伝いを経験。卒業後、住職として何かできないかと考えていたとき、浄土宗の宗報に掲載されていた介護者カフェの存在を知った。
始めた当初は慣れない司会役に戸惑ったが、支援員が示してくれた見本に従って、なんとかこなした。「いまだに緊張するが、参加者が楽しそうに帰っていくのを見ると、やって良かったと心から思う。話を聞くスキルが向上したし、普段の法務にもとても役に立っている」と話す。
介護者カフェの参加者の一人の女性は、最初は図書館でチラシを見て訪れ、「認知症の夫が何でも食べてしまって困っている」と暗い顔で打ち明けた。2回目も同じ話をした。それが3回目になると、明るい表情でよく話すようになった。

「主人はこんにゃくが嫌いだから、炊いたのを置いておいたら、食べなかった。いたずらしたった」。そう笑いながら「ここに来るのが楽しみなんです」と話す様子を見て、佐藤住職もうれしくなった。
「皆で悩みをあれこれしゃべって、共感したり『よう頑張ってるよ』と声を掛け合ったりして、最後はハイタッチして帰っていく。そうした光景を見ると、これがお寺のあるべき姿なんだと、しみじみ思う」と語る。

当初、介護者カフェは佐藤住職の母親と明子さんで運営するつもりだったという。
元々人助けがしたい、人の役に立つようなことがしたいという思いが強かった明子さんは、高校生の頃から障害者福祉施設でボランティアなどを経験。結婚後も、訪問介護やデイサービスの仕事をしていた。家を訪れて相手の話を聞く、僧侶と訪問介護。「同じことをしているね」と、お互いの仕事について話していた。
明子さんが介護者カフェの立ち上げ講座に参加したとき、話を聞くのが上手な夫が主体となって開催した方がいいのではと思い、サポートに回ることにした。
介護者カフェ支援員を務める雲上寺(宮城県塩竈市)の東海林良昌住職や、香念寺(東京都葛飾区)の下村達郎住職の手厚いサポートを受け、アドバイザーで東京都健康長寿医療センター研究所副部長の岡村毅医師とも出会った。「困ったことは一度もない。楽しいことばかり」。介護の仕事では主に利用者と接してきたが、介護者カフェでは家族の思いも聞くことができ、勉強になるという。
最初は「たくさんの人に来てもらわなければ」と焦ることもあったが、じっくり話を聞ける少人数ならではのメリットにもすぐ気が付いた。ただ、地域貢献という意味では「まだまだ」という。「もう少し遠方からも、大王寺を頼って駆け込んでほしい」と話す。
大王寺が昨年11月に開催した「ご縁カフェ」の4周年イベントでは、雲上寺の東海林住職が「やさしさをこめて手をつなごう〜老い支度は共に」と題して講演。住民ら18人が耳を傾けた。
東海林住職は、老い支度とは「周りとのつながりを整えること」と話し、「支えられることは恥ではなく、社会が成熟している証拠。相手を気にかけるささいな言葉が、制度を超える力を持つ。皆で悩みを打ち明け合いましょう」と語りかけた。
その後、参加者らは輪になって実際に語り合った。近くに住む女性(82)は「忙しく過ごしてきたので近所に縁がなく、地域の情報が知りたい」と話した。認知症の夫の介護を「本当にしんどい」と打ち明けた80代の女性や、義母が亡くなってゆっくりできると思った矢先に夫の介護が始まったという女性もいた。

それぞれが介護にまつわる事情を打ち明け、時に笑いを交えつつ、涙を流す人も。「少しでも共感できる人がいると心が軽くなる」「一人で抱え込まないことが大事」などと、口々に気持ちを共有できる場の大切さを強調した。
佐藤住職は「新型コロナで一時中止になるなど、この4年間いろいろあったが、場を提供できることがありがたい。これからも続けていく」と語った。
【用語解説】介護者カフェ
在宅介護の介護者(ケアラー)らが集まり、悩みや疑問を自由に語り合うことで、分かち合いや情報交換をする場。「ケアラーズカフェ」とも呼ばれる。主にNPO法人や自治体などが行っているが、浄土宗もお寺での開催に取り組んでいる。孤立を防ぐ活動として注目される。