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悲しみに温かいまちへ 看護師兼僧侶の挑戦

2023年2月13日

※文化時報2023年1月13日号の掲載記事です。

 曹洞宗東昌寺(長野県松本市)の飯島惠道住職(59)が代表を務める市民団体「ケア集団ハートビート」は、生老病死のトータルケアを掲げ、僧侶と看護・医療やグリーフ(悲嘆)ケアの専門家らが協力して活動している。「地域社会で誰もが満ち足りた生を全うし、大切な人を亡くした後も支え合う」という願いの下、「悲しみに温かいまち・松本」を目指している。(山根陽一)

松本市の中心部にある東昌寺
松本市の中心部にある東昌寺

フラットに、自由に語る

 子どもを亡くした親が集う「たんぽぽの会」や、死別した遺族らによる「分かち合いの会」―。ケア集団ハートビートの活動は、信州・松本地域の人々が看取りやグリーフを経験した後も有意義な人生を送れるよう、「支え合い」に主眼が置かれている。

 昨年11月20日には「看取りと死別と支えあい」と題した勉強会を開き、訪問診療の内科医から、最期は住み慣れた自宅でと願う患者や家族のために、終末期の緩和ケアのノウハウを教わった。

 活動拠点の東昌寺は境内が720平方メートルの寺院で、松本駅から徒歩10分とアクセスが良く、誰もが気楽に入れるオアシスのような場所。檀家が梅花流詠讃歌=用語解説=を学ぶ「瑠璃の会」などのグループとも有機的につながっている。時には住職自らバイオリンを奏で、ライブ演奏会も行う。

 「人は楽しい時も悲しい時もある。自由に語り、励まし、慰め合うフラットな空間にしたい」と、飯島住職は語る。

鎌田實医師から影響

 飯島住職は生後すぐ東昌寺にもらい子として引き取られ、飯島禅道師、飯島祖孝師という2人の尼僧によって育てられた。禅道師が祖母、祖孝師が母の役割を務めたそうだ。

檀家が集う「瑠璃の会」でバイオリンを演奏する飯島住職
檀家が集う「瑠璃の会」でバイオリンを演奏する飯島住職

 仏門を志すとともに、高校時代に腎臓病を患い入院を余儀なくされた経験から、看護師も目指した。信州大学医療技術短期大学部看護学科を卒業後、出家得度し、愛知専門尼僧堂(名古屋市千種区)で修行。31歳の時、諏訪中央病院(長野県茅野市)で勤務を始め、訪問看護や緩和ケア病棟を担当した。

 当時、地域医療の最前線で在宅での看取りを提唱していた鎌田實医師と一緒に働いた経験がハートビートの着想につながったという。

 「穏やかで自然な看取りを、医療と宗教の両面から支えられたら素晴らしい」。そうした思いで、2000(平成12)年に松本へ戻り、東昌寺で僧侶としての生活を再開した。

簡単でない「看仏連携」

 ケア集団ハートビートを立ち上げたのは2006年。以来16年以上にわたり、松本近郊でグリーフケアやスピリチュアルケア=用語解説=をテーマに講演会、読書会、デスカフェ、ライブ演奏会などを催してきた。信州大学や松本大学などの教育機関をはじめ、他の市民グループとも積極的に連携してきた。

 飯島住職は看護師の経験を生かし、「看仏連携」を模索しているが「専門職によって価値観や方法論は違う。医療者は短いスパンの中での結果を求め、宗教者は時間軸を設けない。対立することもある」と現状を厳しく捉える。その上で「違いを乗り越え、協調しようとする姿勢が大切。患者や遺族の苦しみや渇きを軽減するという目標は同じはず」と強調する。

 「たんぽぽの会」の山下恵子代表は「大切な人を亡くした喪失感は計り知れず、体調不良に襲われる。でも、経験者が集い、語り合うことで自身を見つめ直すことができるかもしれない」と、会報につづっている。

 新型コロナウイルス感染拡大に伴う新しい生活様式によって、人と人がつながりにくくなっている現代社会。「だからこそ、共感し合える土壌が必要。『大丈夫だよ』と言ってくれる人が一人でもいれば、少しは温かい気持ちになれるはず」。飯島住職は、そう語った。

【用語解説】梅花流詠讃歌(ばいかりゅうえいさんか=曹洞宗)

 釈尊や曹洞宗の両祖(道元禅師・瑩山禅師)らをたたえる仏教賛歌。梅花流は、真言宗智山派の密厳流をモデルに1952(昭和27)年に設立された。信仰活動の集まりとしての梅花講は約6200あり、講員は約12万7千人。

【用語解説】スピリチュアルケア

 人生の不条理や死への恐怖など、命にまつわる根源的な苦痛(スピリチュアルペイン)を和らげるケア。傾聴を基本に行う。緩和ケアなどで重視されている。

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