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難病患者の就労支援 神社仏閣とコラボに意欲

2023年5月18日

※文化時報2023年3月7日号の掲載記事です。

 京都市内に難病=用語解説=患者の自立と就労を支援するNPO法人がある。自ら難病を患った理事長が、病気を抱えた就職活動のハンディを原動力に設立した。主に身体障害者手帳を取得できない難病患者を対象に、本人の希望や能力に合わせて就労機会を提供している。アニメの舞台となる〝聖地〟の多い京都で、神社仏閣とタイアップしたグッズ作りにも意欲を見せる。(奥山正弘)

 NPO法人京都難病支援パッショーネ(京都市右京区)。パッショーネは、イタリア語で「情熱」を意味する言葉だ。

 理事長の上野山裕久さん(55)は2003(平成15)年、35歳の時に難病の「重症筋無力症」を発病した。末梢神経と筋肉のつなぎ目に障害が生じ、神経から筋肉への情報伝達が不調になって筋力が低下。手足を動かすと筋肉がすぐに疲れ、力が入らなくなる。3度の入退院を繰り返し、一時は寝たきり生活を余儀なくされた。

上野山理事長
上野山理事長

 発病するまでは、経理代行の個人事業主として働いていた。「退院すれば今まで通りに仕事ができる」と当たり前に考えていたが、現実は厳しかった。

 ハローワークでの求職活動は、担当者が求人企業に電話して病名を告げると、ほぼ面接を断られた。「病気があると、就職はこんなにハードルが高いのか」。難病を抱えた就職活動の困難さを、身をもって感じた。

 周囲に病状を理解してもらえず、自身と同様に就職できない難病患者が大勢いることを知った。「難病患者の就労支援は組織力で対応するしかない。組織がないなら、作ればいい」。10年9月、合同会社を立ち上げ、企業と雇用関係ではなく、請負契約で営業していく戦略に活路を求めた。

 さらに「まず利用者の自立を図り、健常者と同じ土俵で戦う支援活動を行うことが大切」と考え、翌年3月にはNPO法人を立ち上げた。

 障害者手帳を取得できない難病患者は、制度のはざまで公的支援を受けられないケースが多いという。そうした難病患者の技能や労働力を引き出し、社会的・経済的な自立を支援することがNPO法人の使命となった。

前向きに生きる礎

 13年4月に障害者総合支援法が施行され、障害者の定義に難病が含まれた。パッショーネが本領を発揮する好機到来である。

 すかさず同年9月から新たに就労継続支援A型事業=用語解説=をスタートし、事業所を開設した。「勝算はないが、とにかく動き出そう」。支援活動が本格的に歩み出した。

パッショーネの事業所で作業をする利用者(画像を一部処理しています)
パッショーネの事業所で作業をする利用者(画像を一部処理しています)

 活動拠点はJR山陰線・嵯峨嵐山駅から徒歩約10分の法人事業所。潰瘍性大腸炎やクローン病、パーキンソン病などの難病や精神疾患の患者37人(2月8日現在)が、体調や通院に合わせて就労している。

 仕事は企業のホームページ作成・管理、通販サイトの運営などのIT関連と、草木染めストールやピアスなどの折り紙アクセサリー、手芸などの企画、製作、販売。多彩なハンドメイドの仕事を、利用者の希望や得意分野に応じて配分する。通所が困難な利用者は、在宅勤務も可能だ。

 30代の女性利用者は「難病を抱える同じ立場の仲間ができて、本当に心強い。いろんな悩みも相談でき、より前向きに生活できる。パッショーネは大事なファミリー的存在」と語る。

 事業所は、難病患者が前向きに生きる礎になっている。

日本経済に活気与える

 神社仏閣がアニメの聖地としても知られている京都。パッショーネは、この立地を生かしたアイテムを掘り起こし、熱心なアニメファンにアピールしている。神社仏閣を舞台にした人気アニメにちなんだグッズを作り、通販サイトや地元の観光土産店などで販売している。

 新選組隊士をデザインした缶バッジや、下鴨神社にある世界文化遺産・糺の森に住むタヌキを描いた手拭いはすでに商品化し、アニメファンや観光客らに好評だ。

利用者が作った折り鶴ピアス
利用者が作った折り鶴ピアス
利用者が作った新選組隊士の缶バッジ
利用者が作った新選組隊士の缶バッジ

 今月27日には、文化庁が京都に移転する。上野山理事長は「文化庁の京都移転をきっかけに、神社仏閣にアプローチして連携し、アニメの聖地ならではのアニメグッズをもっと作りたい」と意気込む。個別の難病名を記し、神社仏閣でご祈禱を受けたオリジナルのお守りも考案している。

 パッショーネは近い将来、社会福祉法人化して組織強化を図る一方、藍染めなど自社商品の海外販売(輸出)を目指す。

 「個人の能力を最大限に生かすことがパッショーネの主義。世の中に埋もれたままになっている難病患者の技能、労働力を社会の表舞台に出し、京都を発信源として日本経済に活気を与える存在になりたい」

 上野山理事長が難病患者の就労支援に注ぐ情熱(パッショーネ)は、どこまでも熱い。

【用語解説】難病

 発病の機構が明らかでない▽治療方法が確立していない▽希少な疾病▽長期の療養が必要―という四つの要件を満たす疾患。厚生労働省は、難病の中でも、患者数が一定数を超えないことや、客観的な診断基準が成立しているなどの条件を満たす疾患を「指定難病」としており、重症患者には医療費を助成している。2021年11月現在、潰瘍性大腸炎やパーキンソン病など338疾病が指定難病となっている。

【用語解説】就労継続支援A型事業

 障害者総合支援法で定められた就労支援サービスの一つ。通常の事業所に雇用されることが困難な障害者や難病患者らに対し、雇用契約を結んで就労・生産活動の機会や場所を提供したり、就労に必要な能力向上訓練などの支援を行ったりしている。

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