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⑫高齢者住宅から葬儀参入 学研ココファン

2023年6月5日

※文化時報2023年1月17日号の掲載記事です。

 学研ホールディングスの子会社で高齢者住宅事業会社の学研ココファン(東京都品川区)は2022年10月、葬儀事業に本格参入した。同社は定員数3位の高齢者住宅事業会社の大手。同業他社が追随することも予想され、葬儀業界のみならず宗教界にも影響を及ぼす可能性がある。

学研グループのサ高住・グループホーム・学習塾などの複合施設「ココファン川崎高津」
学研グループのサ高住・グループホーム・学習塾などの複合施設「ココファン川崎高津」

88%が参入に賛成

 学研ココファンは、葬儀会社のきずなホールディングス(東京都港区)との共同出資で合弁会社「学研ファミーユ」を設立した。出資比率は学研ココファン51%、きずなHD49%。合弁会社直営の葬儀ホールを全国で展開していく。

 学研ココファン代表取締役兼CEOで学研ファミーユの会長に就任した小早川仁氏は「高齢者住宅事業会社が葬儀を行うと、『二度商売するのか』などと批判される懸念があり、個人的には葬儀はやらないと言い続けてきた」と話す。

 では、どのような経緯で葬儀事業参入に踏み切ったのか。

 学研ココファンの高齢者住宅のある利用者の遺族から手紙が届いた。父が学研にお世話になり、人生の最期を父らしく過ごすことができて感謝している。ただ、亡くなった後はバタバタと慌ただしく、ゆっくり見送ることができなかった。最期を一緒に暮らした学研の人たちに見送ってもらえたら父も喜んだと思う―との内容だった。

 ほかにも「葬儀で残念な思いをした」という遺族の不満が、職員に届くことがあった。そのため、職員からも「なぜ葬儀をやらないのか」との声が本社に上がるようになったという。

 そうした利用者家族と職員の要望を踏まえ、葬儀参入について一度真剣に検討してみようと、20年にプロジェクトをスタート。同社が主力とするサービス付き高齢者住宅の事業所長クラス全員に葬儀事業参入への賛否を問うたところ、88%が賛成した。これが参入する一つの決め手になった。

複合施設の「ココファン吹田SST」
複合施設の「ココファン吹田SST」

きずなHDと近い

 葬儀参入を決めた後、学研ココファンは多くの大手葬儀会社と面談し、事業内容や提携形態などの詳細を話し合った末に、きずなHDと資本・業務提携した。きずなHDをパートナーとして選んだ理由について、小早川氏は「企業理念が似ており、私たちと考え方が近かった」として、次のように説明する。

 きずなHDの経営陣も学研ココファンと同様、葬儀業界の外から参入した。「業界の伝統や慣習などに捉われず、時代の変化に合ったお見送りをしていかなければならないとの考えを持っていたことに共感できた」という。

 加えて、プロジェクトでは高齢者住宅の利用者家族に対し、どのような葬儀を望むかなどの調査を行ったところ、家族葬と答えた人が圧倒的に多かったことも、家族葬を得意とするきずなHDを選んだ理由の一つとなった。

2032年めどに100ホール

 合弁会社「学研ファミーユ」では、学研ココファンが、高齢者住宅利用者など葬儀が必要となる顧客に、サービスを紹介。また、これまで高齢者住宅を500棟以上手掛けてきた実績を生かし、葬儀ホールの開発を担当する。合弁会社だけでなく、きずなHDの葬儀ホールについても開発を行う。一方、きずなHDは、葬儀のオペレーションを中心に担う。

 当面は学研ココファンの既存の介護施設が多くあり、きずなHDの葬儀ホールが1店舗のみの神奈川を中心に展開。その後は、学研ココファンの地盤を中心に、出店エリアを拡大していく。出店数は、2032年をめどに100ホールが目標で、「難易度はさほど高くない」と、小早川氏は自信を見せる。

「個人的には葬儀はやらないと言ってきた」と語る小早川仁・学研ココファン代表取締役兼CEO
「個人的には葬儀はやらないと言ってきた」と語る小早川仁・学研ココファン代表取締役兼CEO

【塚本優の見方】追随、業界に変化か

 学研ココファンの葬儀事業参入は、高齢者住宅・介護業界や葬儀・供養業界にどのような影響を及ぼすのか。筆者の見方を述べたい。

 学研が葬儀事業参入を決めた背景には、次のような要因もある。

 一つは、介護事業は社会保障制度による公的資金に依存したビジネスであるが、制度が破綻の危機に直面していることだ。小早川氏も「特に上場企業は、社会保障制度に依存しないビジネスで社会貢献できることを考えなければならない」と話している。

 また、高齢化は2042年にピークアウトする。「高齢者住宅は、オーナーによる建て貸しのスキームがほとんどで、契約期間はだいたい20年。ということは、23年に建てる高齢者住宅の契約が満了するのは43年となり、高齢化のピークを過ぎてしまう。だから、当社のリソースを今からほかの事業へ徐々にシフトしていかなければならない」と小早川氏は語っている。

 これらは、学研ココファンに限らず、どの高齢者住宅・介護事業会社も抱えている大きな課題だ。

 加えて、高齢者住宅事業会社の上位は、葬儀を内製化してもおかしくない規模まで拡大している。上位2社の定員数は2万人を超えており、1万人を超えたところも十数社に上る。

 これらを考えると、学研ココファンの葬儀事業への本格参入により、追随する高齢者住宅事業会社が出てくる可能性は高い。場合によっては、せきを切ったように相次ぎ参入することで、葬儀・供養業界が大きく変化していく可能性もある。

 お寺が、そのポテンシャルをいかんなく発揮していくためには、介護・福祉、医療分野を視野に入れた取り組みがますます重要になってきているといえよう。

塚本優が聞いた「葬儀事業参入の理由」
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