2023年7月9日
※文化時報2023年6月2日号の掲載記事です。
動画配信サイト「ニコニコ」を運営する株式会社ドワンゴ(東京都中央区)が主催するニコニコ超会議=用語解説=。ネットカルチャーを愛する若者たちが集う場で、近年は仏教が注目されているという。どんな「ナムい」イベントがあるのかと興味津々で参加してみると、6万人以上が想像のはるか上を行く〝極楽浄土〟の世界にいざなわれていた。(松井里歩)
ニコニコ超会議は、2012(平成24)年から続くイベント。会場には100を超えるさまざまなブースが存在し、来場者は思い思いの場所へ足を運ぶ。音楽やトーク、あるいは仲間との交流を楽しむため毎年約10万人が訪れ、来場制限のあった昨年は延べ1300万人以上が配信を視聴するなど、ビッグイベントに成長した。
今年の「ニコニコ超会議2023」は4月29、30の両日に幕張メッセで行われ、記者はオンラインのライブ配信で参加した。お目当ては、浄土真宗本願寺派照恩寺(福井県)の朝倉行宣住職を中心とした超宗派の僧侶らがパフォーマンスを繰り広げる「テクノ法要」。仏教にテクノロジーを掛け合わせた新しい仏教芸術エンターテインメントとして知られている。
法要の際に唱える正信偈や初夜礼讃偈などのお経とテクノサウンドをミックスし、多くの人が親しめるようアレンジした。「極楽浄土は光の世界」というキーワードを元に、プロジェクターで投影した光と複数ユニットの仏教音楽で空間を装飾。バーチャルな極楽浄土を体感できる場となっている。
ライブは午前11時から開始。テクノ法要だけでなく、僧侶による声明、雅楽なども奉修され、厳かな雰囲気を味わった。2日目は終了予定の午後4時を大幅に過ぎ、5時の終了となったが最後まで多くの人が音楽に聴き入っていた。
事前にはクラウドファンディングも実施され、98人が支援。公演中にも、返礼品のCDを目当てに支援をする人が現れ、完売した。現地では返礼品の一つだったお香がたかれ、それぞれの音楽の雰囲気に合った香りで来場者を楽しませたという。
オンライン配信では、視聴者は動画の上にコメントを投稿できる。「ナムい」などの造語や「日本人でよかった」などのコメントは、会場の巨大モニターにも映し出され、感想を可視化することで一体感を味わえる。時には投稿したコメントに対するレスポンスもあり、皆で楽しんでいるという実感が湧いた。
ほかには、放送者への応援としてギフトを購入して贈ることもできる。今年は合計約2万ポイント(1ポイント=1円)分が視聴者から寄せられ、ギフトの演出が何度もモニターを彩った。
また今年初の試みとして、臨済宗建仁寺派高台寺(京都市東山区)の「アンドロイド観音マインダー」も京都から来場。製作に携わった後藤典生・前執事長も会場入りし、アンドロイド観音の意義について説明した。
恒例の人気企画「お坊さんと話そう」は今年、仮想現実(VR)で体験可能になった。サイトにアクセスすると、バーチャルなお寺の中を自由に観察して回ることができ、滞在するお坊さんと音声で会話できるという仕組みだ。
VR内の半個室空間に入ると、明るい声であいさつが聞こえた。本願寺派僧侶の武田正文さん。「普段お寺やお坊さんと関わる機会はありますか」と、会話がしやすくなる声かけをしてくれた。
武田さんは、臨床心理士と公認心理師の資格を持ち、カウンセラーやお坊さんユーチューバーとしても活動する。日頃の悩みを相談するために訪れる人も多く、仏教の教えなどを用いた話は胸に響きやすいと評判だ。
会場とは違って、静かな環境で1対1の対話ができるため、ほっとするひとときを過ごせた。他にも4人の僧侶が在席し、参加者はVR内の好きな場所を散策して、会話を楽しんだ。
仏教は、ネットやロボットなどの新しい技術とも高い親和性を持って融合できる。そうした特長は、若者をはじめ新たな人との縁を結ぶ上で強い武器となるだろう。仏教の可能性を感じさせられるイベントだった。
【用語解説】ニコニコ超会議
動画配信サイト「ニコニコ」で注目を集めているゲームや音楽などのネットカルチャーを中心に、あらゆるジャンルのコンテンツをリアルに体験できるイベント。素人から著名人まで、さまざまな出演者がパフォーマンスを披露する。仏教関連では、2018(平成30)年に初参加したテクノ法要をきっかけに、20(令和2)年には華厳宗大本山東大寺や天台宗総本山比叡山延暦寺の法要中継やリモート参拝が反響を呼んだ。