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グリーフケアを池田小遺族に学ぶ 東本願寺奉仕団

2023年9月9日

※文化時報2023年7月14日号の掲載記事です。

 真宗大谷派でビハーラ活動=用語解説=に取り組む僧侶らが真宗本廟(東本願寺、京都市下京区)に集う「東本願寺ビハーラネットワーク奉仕団」が4、5の両日、境内の同朋会館で開かれた。今年は「真宗寺院とグリーフ(悲嘆)ケア」をテーマに、大阪教育大付属池田小(大阪府池田市)の児童殺傷事件(池田小事件=用語解説=)の遺族、本郷由美子さんを講師に迎えた。参加者らは、講義と座談会を通じ、犯罪被害者と加害者への支援や寺院と僧侶の役割について考えを深めた。(高田京介)

 奉仕団は毎年開かれており、今年で19回目。宗派教育部が昨年発行したグリーフケアに関わる学習テキストが教師養成の授業に用いられていることを受け、グリーフケアの意義や実践を改めて学び合おうと、今回のテーマを設定した。

 4日昼に講義、夜に班別で座談会をし、翌5日には他の奉仕団と共に仏具を磨く「おみがき」を行ったほか、ビハーラ活動に取り組む僧侶らが活動を報告した。速水馨研修部長は各奉仕団の解散式で「グリーフは誰にでも起きる。何を失ってきたのかを自覚することで他人を大切にできる」と語った。

生きたかった39メートル 本郷由美子さん

 本郷由美子さんは4日の講義で、僧侶にグリーフケアの重要性を分かってもらおうと、自身の体験や活動を切々と訴えた。

被害者と加害者両方の視点が必要と話す本郷由美子さん
被害者と加害者両方の視点が必要と話す本郷由美子さん

 

 本郷さんは、小学2年だった長女の優希さん(当時7)を池田小事件で亡くした。事件の6年前、1995(平成7)年に発生した阪神・淡路大震災で自宅が半壊し、生後間もない優希さんを連れて池田市へ移り住んだ。

 これから前向きに生きていけるはず―と考えていた本郷さんから愛娘を奪った、突然の凶行。真相を知りたいと、現場に通い詰めた。警察からは当初、即死だったと聞かされていたが、犯人に刺されてから廊下を39㍍歩いていたことが後になって分かった。

 発見が遅れ、救助が間に合わなかった原因にもなったことから、本郷さんは優希さんの行動を責めた。点々と血の付いた廊下を毎日、なぞるように歩いていると、ふと優希さんが現れたように感じた。懸命に「生きたい」と歩いたのが、39メートルという距離。大人の歩幅を基準にして、68歩分だった。

 「優希が生きることの大切さを伝えてくれた」。69歩目を進めようと誓った。

葬式で一生苦しむ

 99年に発生した米コロンバイン高校銃乱射事件の遺族から手紙を受け取り、「思っていることを口にしていい」と励まされてから、日々の思いを少しずつ書き記すようになった。それが、『虹とひまわりの娘』(講談社)という本になり、罪を犯した少年たちの矯正教育に用いられたことが縁になって、少年院に行った。

 加害者である子どもたちも、虐待などを受けた被害者なのかもしれない―。そう認識するようになった。被害者と加害者の両方に寄り添うグリーフケアの必要性を感じた。上智大学グリーフケア研究所で学びを深め、スピリチュアルケア師=用語解説=の資格も取った。

 「事件の直後は『どうして自分ばかりが…』と考え、生きる意味を失っていた」。本郷さんはそう振り返り、優希さんの葬儀で傷ついた経験から「安易なアドバイスや慰めは、二次被害につながる。特に葬式に携わる僧侶が対応を間違えると、遺族は一生苦しむ」と警鐘を鳴らす。

本郷さんの講演を聴くビハーラネットワーク奉仕団の参加者ら
本郷さんの講演を聴くビハーラネットワーク奉仕団の参加者ら

 

 グリーフケアには宗教者の取り組みが欠かせないとの認識を示す一方、教誨師(きょうかいし)や保護司として加害者の支援に関わる宗教者には「被害者の声も受け止めてほしい」と要望した。

本を通じ寄り添う

 本郷さんは、新たな活動にも取り組んでいる。

 2020(令和2)年11月には、絵本や児童書など約1200冊の蔵書からケアにつなげるライブラリー「ひこばえ」を、浄土宗光照院(東京都台東区)に間借りしてオープンさせた。喪失を体験した人たちに寄り添う場をつくりたいと考えたためだ。

 池田小事件では、犯人が幼い頃から虐待を受けていた。そんな環境で育った子どもが自分の意思を言葉で表現することは難しく、行動で示さざるを得ない。

 遊びを通じて子どもたちに寄り添い、傾聴につなげられれば―。「空間自体がケアの場になる。子どもたちが主体的に考え、思いを言葉にしてもらえるようになる」。そんな手ごたえを感じている。

 

【用語解説】ビハーラ活動(真宗大谷派など)

 医療・福祉と協働し、人々の苦悩を和らげる仏教徒の活動。生老病死の苦しみや悲しみに寄り添い、全人的なケアを目指す。仏教ホスピスに代わる用語として提唱されたビハーラを基に、1987(昭和62)年に始まった。ビハーラはサンスクリット語で「僧院」「身心の安らぎ」「休息の場所」などの意味。

 

【用語解説】池田小事件

 2001(平成13)年6月8日午前10時10分ごろ、大阪教育大付属池田小(大阪府池田市)に包丁を持った宅間守・元死刑囚(当時37)=04年に死刑執行=が侵入。校舎1階の教室や廊下で2年女児7人と1年男児1人を殺害し、教員2人含む1、2年の児童ら15人に重軽傷を負わせた。学校の安全管理や重大犯罪を起こした精神障害者の処遇に関する議論が本格化した。

【用語解説】スピリチュアルケア師

 日本スピリチュアルケア学会が認定する心のケアに関する資格。社会のあらゆる場面でケアを実践できるよう、医療、福祉、教育などの分野で活動する。2012(平成24)年に制度が設けられ、上智大学や高野山大学など8団体で認定教育プログラムが行われている。

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