2023年9月26日
※文化時報2023年9月1日号の掲載記事です。
大阪市天王寺区の浄土真宗本願寺派長願寺(新發田恵司(しばたけいじ)住職)は8月23日、恒例の地蔵盆に合わせて、まちの保健室=用語解説=を初めて行った。大阪府看護協会や天王寺区社会福祉協議会の支援を受け、今後も定期開催する。新發田住職は「福祉活動によって、お寺を地域のハブ(結節点)にしたい。仏教行事と合わせて行えば、お寺の認知度も上がる」と話す。
まちの保健室は、大阪府内では公共施設も含めると15カ所目、宗教施設では8カ所目。はな未来訪問看護ステーション(同市中央区)所長で看護師の岩切かおりさんと共同で運営する。
この日は、本堂1階ホールに血圧や体脂肪率を測る機器を用意し、午後3時に開場。訪れた地域住民2人は、看護師と30分余り談笑しながら、健康維持のアドバイスを受けていた。午後5時には地蔵盆の法要を行い、集まった子どもたちはおさがりのお菓子をもらった後、スーパーボールすくいを楽しんだ。
天王寺区社協の上野志穂・地域支援担当係長は「気軽に出入りできる場になれば、1人暮らしの高齢者の居場所になる」と期待。府看護協会の山口世志子地域包括ケア事業部部長は「お寺がさまざまな専門機関とつながることが必要。まちの保健室を、中学校区につき1カ所ずつ開いてほしい」と話した。
「終末期の患者と向き合う中で、どのように死を伝えればいいのか」。看護師の岩切かおりさんが新發田恵司住職にこうした相談をしたことが、まちの保健室の開催につながった。
岩切さんは新發田住職の勧めで、本願寺津村別院(大阪市中央区)で開かれたビハーラ活動=用語解説=の研修に参加。死生観を伝える僧侶と医療者の連携が必要だと確信したという。
一方、新發田住職も2020年に臨床宗教師=用語解説=となり、医療者との連携を模索。お寺が地域の人々との距離を縮め、死について語り合えるようにしたいと考えた。
岩切さんは「終末期の患者は、家族を含めて死への不安を抱えている。それを、宗教が大丈夫だと安心させてくれる」と話した。
新發田住職は「聖徳太子は、医療も仏教も全部行っておられた。医療者と僧侶の本質は同じだが、医療者は死を語りがたい。亡くなる前から死生観を得ることは大切」と話した。
【用語解説】まちの保健室
学校の保健室のように、地域住民が健康などさまざまな問題を気軽に相談できる場所。図書館や公民館、ショッピングモールなどに定期的に設けられ、看護師らによる健康チェックや情報提供が行われる。病気の予防や健康の増進を目的に、日本看護協会が2001(平成13)年度から展開している。
【用語解説】ビハーラ活動(浄土真宗本願寺派など)
医療・福祉と協働し、人々の苦悩を和らげる仏教徒の活動。生老病死の苦しみや悲しみに寄り添い、全人的なケアを目指す。仏教ホスピスに代わる用語として提唱されたビハーラを基に、1987(昭和62)年に始まった。ビハーラはサンスクリット語で「僧院」「身心の安らぎ」「休息の場所」などの意味。
【用語解説】臨床宗教師(りんしょうしゅうきょうし=宗教全般)
被災者やがん患者らの悲嘆を和らげる宗教者の専門職。布教や勧誘を行わず傾聴を通じて相手の気持ちに寄り添う。2012年に東北大学大学院で養成が始まり、18年に一般社団法人日本臨床宗教師会の認定資格になった。認定者数は23年5月現在で212人。