2023年10月1日
※文化時報2023年7月28日の掲載記事です。
うつ状態の当事者らが京都市内のキリスト教会で、自らの思いや体験を分かち合い、ほっと安らぐ「心の居場所」づくりに取り組んでいる。立ち上げたのは、同じ精神疾患を抱えた2人の聖職者。「宗教者の社会奉仕」を実現するため、当事者と共に歩んでいる。(奥山正弘)
都市下京区河原町通五条下ル。日本聖公会京都聖ヨハネ教会の地下ホールで6月3日、うつ状態の当事者らの自助グループ「マ・カタリーナ」が「分かち合いの会」を開催した。各地から20〜70代の男女15人が集い、午後1時から2時間、日頃の悩みなどを語り合った。
集いのテーマは「分かってもらえないこと」。参加者は長テーブルに向かい合って座り、まず自己紹介で自身の疾患などを説明。フリートークでは「仕事は何とか笑顔で頑張っているが、すでに気持ちはキャパオーバー」「外見は元気そうに働いているが、内面は不安で落ち込んでる」などと心の内を打ち明けた。
グループ名は、キャッチフレーズ「なんでもきくし まぁかたりぃな」に由来する。うつ病や双極性障害(そううつ病)、統合失調症などの精神疾患のほか、うつ状態の当事者が対象だ。秘密厳守で、匿名またはニックネームで参加できる「言い放し、聞き放し」が特長の分かち合いの場である。
グループ世話人の一人は日本聖公会京都教区の司祭、荒木太一さん(45)。障害者支援施設の職員を経て27歳のとき、神学校に入った。
20歳過ぎのころ、うつ病の友人が人生に悩んだ末、自殺未遂をした。このつらい体験が、聖職者の道を志す大きな動機になったという。
自身も23歳のとき、双極性障害を発症した。「うつのしんどさは、うつになった人にしか分からない。話を聞いてもらって初めて力づけられる」と荒木さん。しかし、当時は「家族以外に分かち合う人がいなかった」と振り返る。
「うつ状態の当事者は人生や社会に対して否定的になりがちだが、気持ちを分かち合い、共感することで前向きに肯定し合いたい」。教会の社会活動として、障害がある人に神の愛を伝えるため、自助グループの立ち上げを目指した。
荒木さんと二人三脚でグループの設立に奔走したのが、もう一人の世話人、麓(ふもと)敦子さん(51)。精神保健福祉士として医療機関に勤務後、京都聖ヨハネ教会の牧師を務めていたとき、日本聖公会京都教区の活動で荒木さんと知り合い、意気投合した。自身も双極性障害の当事者である。
「精神保健福祉士の活動で、対象者に助言しても心の痛みは解決できなかった。最後は祈ることに助けを求めた」。40歳で神学校に入った。
2人は協力して2019(令和元)年7月、「マ・カタリーナ」を立ち上げた。「他では言えない心の内を語り合い、ほっと重荷を下ろそう」と、インターネットや情報誌などで参加を呼びかけ、月1回、分かち合いの会を催している。
世話人の2人も当事者として参加しており、「自助グループは聖職者の社会貢献の一つ」と荒木さんは胸を張る。麓さんは「同じような活動をしているお寺さんがあれば交流したい」と語る。
「たくさんしゃべって、聞いてもらえてよかった」。参加者のこんな明るい声が世話人2人の原動力であり、何よりの励みになっている。
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