2023年10月21日 | 2023年12月5日更新
※文化時報2023年9月5日号の掲載記事です。
傾聴活動に携わる僧侶の育成を目指そうと、臨済宗東福寺派は今年度の住職・副住職研修会で、一般財団法人お寺と教会の親なきあと相談室理事兼アドバイザーの藤井奈緒氏を講師に招いた。文化時報社の実施事業「文化時報紙上セミナー」を活用した取り組み。原田融道管長や稲葉隆道内局、一般寺院の住職ら15人余りが聴講し、傾聴の意義や姿勢について学びを深めた。
住職・副住職研修会は7月19と20の両日、宗務本院(大慧殿、京都市東山区)で行われた。初日に藤井氏が「なぜ傾聴は必要なのか―『親なきあと』の相談支援で感じていること」と題して講演。その後、蘆田貴道教学部長が参加者の法話を指導した。翌20日は作家の鷲見京子さんが「令和の時代に万葉集が語るもの」との講題で話した。
東福寺派は近年、傾聴活動に着目し、一般寺院でさまざまな相談を受け付けている。コロナ禍に入った2020年以降は、観光名所で知られる大本山東福寺の通天橋などで、法話と参拝者からの質問を受ける「常楽説法」を年200回ほど開催してきた。
「親しみやすい宗派」を掲げる稲葉宗務総長は「僧侶への期待は、説教だけでない。傾聴を行っていけば、昔の『駆け込み寺』のように社会活動に参画できるはずだ」と話している。
一般財団法人お寺と教会の親なきあと相談室理事兼アドバイザーの藤井奈緒氏は、障害のある子やひきこもりの子の面倒を親が見られなくなる「親なきあと」を巡って、支援状況や相談室の取り組みを説明。お寺や僧侶に対する期待や、傾聴活動の必要性について語った。
藤井氏は、重い知的障害と歩行困難のある長女(20)と、注意欠陥多動性障害(ADHD)と診断された次女(14)の母親。障害者家族の当事者として、全国で相談支援や講演を行っている。
藤井氏は、一般的に障害のある子のきょうだいには負担をかけづらく、親戚とは疎遠になりがちといった家族の状況を伝え、「相談できる場や存在が必要。お寺や僧侶がその中心になってもらえれば」と呼び掛けた。
その上で、傾聴活動に携わることも支援の一つだと述べ、具体的な方法を伝授。沈黙を怖がらず、質問せずに相づちを打つ▽「つらい」などと決めつけない▽聴くことに徹し、体験談や助言はしない▽相談者の意向を確認しながら、主体的に動いてもらえるようサポートする―といった姿勢が重要だと指摘した。
藤井氏は、お寺と教会の親なきあと相談室の取り組みについても紹介した。
同相談室は、宗教者にも親なきあとを担ってもらいたいと、2021年10月に文化時報社が設立。宗派を超えた13カ寺が支部として活動している。「親あるあいだの語らいカフェ」を開くなどして、僧侶らが当事者や家族の不安を傾聴し、行政や専門職とつなげる貴重な場となっている。
藤井氏は、たとえ現実には難しくても、「子どもが亡くなるまで自分が面倒を見たいと、どの親も思っている」と強調。行政などが設けた公的制度や、専門職による「課題解決型」の支援だけでは不十分だとした上で、一緒に悩み考え続ける「伴走型」の支援が必要だと訴えた。
それにはお寺や僧侶の協力が欠かせないとし、藤井氏の地元の大阪府八尾市でも、行政から「親なきあと」に取り組むお寺があれば協力したいとの声が上がっていることを明かした。
さらに藤井氏は「制度に基づく支援は『ゆりかごから死ぬ直前まで』。僧侶には弔いとその後まで担ってほしい」と求め、「近くにそうしたお寺があれば、当事者の安心につながる。できることから始めてもらえれば」と語り掛けた。
講演後、受講者からは「親なきあと」の現実に対する驚きや、僧侶が期待されていることへの希望の声が上がり、実践的な取り組みへの意欲も聞かれた。
原田融道管長は「本山で開催している常楽説法でも、さまざまな相談が寄せられている。相談室の取り組みに共通するものがあり、充実した研修内容だった」と振り返った。
参加したある僧侶は「檀家で障害のある方の関係者から相談が寄せられ、十分に回答ができないでいた。講演を聞き、具体的な手段を示してもらえたことで、何か行動したいと思った」と話し、別の参加者は「ショッキングな内容で、考えさせられた」と語った。