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「工福連携」で就労モデル 龍谷大学・南山城学園

2023年10月31日

※文化時報2023年9月19日号の掲載記事です。

 浄土真宗本願寺派の宗門校龍谷大学(京都市伏見区)は、障害者のために高賃金の新しい就労モデルを開発しようと、工業と福祉のコラボレーションを図る「工福連携」の取り組み「KOUFUKU連携プロジェクト」を開始した。提携先の社会福祉法人南山城学園(京都府城陽市)では、施設利用者らがロボットと協働し、小さな電子センサー基板を製造。「少し難しいが、できるようになっていくのがとても楽しい」と笑顔を見せている。(松井里歩)

はんだ付けを行うロボット
はんだ付けを行うロボット

 機械の両側にあるボタンを押すと、幅約1.5メートル、奥行き約2.7メートル、高さ2.2メートルのケースに入った「双腕スカラロボット」のアームが動いて、最初の電子部品を基板に取り付ける。その後、約4~13ミリの部品を、今度は人が指やピンセットで基板に配置し、ロボットがはんだ付けをする―。

 製造しているのは、さまざまなセンサーを搭載できる小さな基板。わずか10分ほどででき上がる作業を行うのは、南山城学園が運営する障害者施設の利用者たちだ。川崎重工業株式会社など複数の企業と協力し、障害のある人でも簡単で安全に操作できる日本初の製造ラインを構築。けがやトラブルにならないよう徹底して設計してある。

 それぞれ苦手な作業は分担して行うこともあり、今後は利用者の特性に合わせた個別化対応を進めていくという。

細かい部品を施設利用者が並べていく
細かい部品を施設利用者が並べていく

 完成したセンサー基板は高校の教材として使うほか、動物被害に対するわなや、ため池などに設置し、安全確認に利用する予定。納品するにはまだ調整が必要だが、今年10月の流通を目指している。

障害者福祉に理解を

 同プロジェクトは、工業と福祉の課題を解決することを目指して龍谷大学と南山城学園が連携し、2021年6月に立ち上げた。

 最先端の工業技術と連携することで課題を解決しようと龍谷大学の深尾昌峰副学長が発案し、以前から交流のあった南山城学園とタッグを組むことになった。

 事業内容については、深尾副学長と接点のあった和歌山大学の秋山演亮教授が開発したセンサー基板を活用できないかと考え、今までにあった農福連携ではなく「工福連携」を始めるに至ったという。

 南山城学園の岩田貞昭次長は「今まで福祉と関係の薄かった企業にも障害者福祉との連携を意識してもらい、理解につなげてほしい」と話している。

働きづらさを支援
低工賃・人材難の解消図る

 社会福祉法人南山城学園(京都府城陽市)が今回異色の工福連携に乗り出した背景には、製造業の人手不足と障害者の低賃金という二つの問題がある。

工福連携の取り組みでつくられた日本初のセンサー基板の製造ライン
工福連携の取り組みでつくられた日本初のセンサー基板の製造ライン

 経済産業省の「2022年版ものづくり白書」によると、製造業の就業者は20年間で157万人減少している。

 一方、厚生労働省の工賃に関する調査によると、就労継続支援B型事業所=用語解説=で働く人の工賃が全国の平均最低賃金の約4分の1にとどまっているという。

 深尾昌峰副学長はそれらのデータに着目し、龍谷大学が企業間をつなぐ役割を果たそうと考えた。

 深尾副学長が連携先に選んだ南山城学園は、障害者支援施設や地域福祉支援センター、保育園など約40カ所の施設を運営している。今回ロボットを導入したのは、就労支援に主に取り組む障害者支援施設「魁(さきがけ)」。単純な軽作業だけでなく、野菜作りや利用者らの布団を洗濯するなど、多様な仕事を取り入れてきた。知的障害者らを中心とした入所者60人のうち5人ほどが、敷地内にある作業棟の一室で今回の作業を行っている。

 仏教の観点で持続可能な社会を考える「仏教SDGs」の推進や研究を行う「龍谷大学ユヌスソーシャルビジネスリサーチセンター」で、プロジェクトの事務局の役割を担った並木州太朗研究員は「働きづらさを乗り越えていく」のがセンターのテーマであると話す。今までの研究を生かしつつ、さまざまな大学や企業、法人などをつなぐハブ(結節点)のような存在として機能しているという。

プロジェクトについて語る並木研究員
プロジェクトについて語る並木研究員

 「福祉施設の人たちが作ったもので社会の安全が保たれることを知ってもらい、関係性を変えることにつながってほしい」と期待を寄せた。

 合わせて、「働きづらさを抱える人の働ける仕事を増やすことは、病気や高齢になったときの選択肢が増えるという意味で、誰にとっても有益」と指摘し、今後も障害者の多様な働き方を追求していく方針を示した。

【用語解説】就労継続支援B型事業所

 一般企業で働くことが難しい障害者が、軽作業などを通じた就労の機会や訓練を受けられる福祉事業所。障害者総合支援法に基づいている。工賃が支払われるが、雇用契約を結ばないため、最低賃金は適用されない。

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