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医療と仏教、共に実践 ビハーラ医療団が大会

2023年11月16日

※文化時報2023年9月26日号の掲載記事です。

 宗教者と医療者が真宗の教えを学び、ビハーラ活動=用語解説=を推進する「ビハーラ医療団」(事務局・仁愛大学、福井県越前市)は3日、真宗大谷派の宗門校、同朋大学(名古屋市中村区)で第21回大会となる研修会「仏教と医療を考える集い」を開催した。「老病死を考える―医療と仏教を考える」をテーマに、約30人が学びを深めた。

宗教者と医療者が集まったビハーラ医療団の第21回大会=3日、名古屋市中村区の同朋大学
宗教者と医療者が集まったビハーラ医療団の第21回大会=3日、名古屋市中村区の同朋大学

 ビハーラ医療団は1998(平成10)年7月、仁愛大学学長の田代俊孝代表と龍谷大学客員教授の田畑正久氏、大谷派門徒の内田桂太氏の呼び掛けで発会した。医療関係者で僧籍を持つ会員らが集う研修会を毎年開催。2015年には仏教伝道協会の沼田奨励賞を受賞した。

 この日は田代代表や田畑氏をはじめ、京都市内の病院でチャプレン=用語解説=を務める笠原俊典氏らが登壇。自身の取り組みに基づき、医療と仏教の協働と実践について発表した。主な発表者の発言要旨は以下の通り。

別院事業に相談室
田代俊孝氏 (仁愛大学学長・真宗大谷派行順寺住職)

田代氏
田代氏

 医療や福祉の現場で仏教の教えが果たす役割は年々大きくなっている。

 1988(昭和63)年に学者や医療・福祉関係者でつくる「死そして生を考える研究会」を立ち上げた。仏教の立場から、患者や高齢者に精神的サポートをする。これを「デス・カウンセリング」と名付け、相談支援を行ってきた。

 90年3~5月に開創300年・開基一如上人300回御遠忌を執行した大谷派名古屋別院では、当時の住田石梁輪番が寺院活性化を目指す一環として、研究会の取り組みに注目。同年9月に「老いと病のための心の相談室」を設置した。相談員は仏教教義、カウンセリング技法、福祉・医療介護の入門を学ぶ養成講座の修了者から募り、別院のさまざまな取り組みに奉仕するようになった。

 コロナ禍に入り紆余(うよ)曲折があったが、今年で相談員の養成講座が40期目を迎えた。残念ながら他教区に広がることはなかったが、毎年300件以上の相談が寄せられている。当時の「開かれた別院」としての思いは果たせたのではないか。

燃え尽き症候群と仏教
田畑正久氏 (龍谷大学客員教授)

田畑氏
田畑氏

 燃え尽き症候群(バーンアウト)は、1970年代半ばに米国の精神心理学者フロイデンバーガーが初めて用いた言葉だ。社会生活で必要な仕事や勉強の意欲が減退する。社会心理学者のマスラークは、情緒的消耗感、脱人格化、個人的達成感の低下の三つの症状に整理した。

 日本では、2019年の日本緩和医療学会で、緩和ケアを志す若手医師の約7割に燃え尽き症候群の症状が見られ、約3割が気分・不安障害を抱えているとの国立がん研究センターの調査結果が示された。別の調査では、症状が個人的達成感の低下、情緒的消耗感、脱人格化の順となった。

 スピリチュアル(魂)は、健康の根幹を成している。1974年に定められた世界保健機関(WHO)の健康の定義は「肉体的、精神的、社会的に健全である」だが、後に「スピリチュアル(魂)」を加えるよう検討された。

 仏教学者の羽矢辰夫氏は、科学的合理主義的な「死んだら終わり」という意識に警鐘を鳴らした。仏教の浄土、仏の智慧(ちえ)の働きの場が求められている。

ハワイでの学び生かす
笠原俊典氏 (稲荷山武田病院チャプレン・真宗大谷派持専寺住職)

笠原氏
笠原氏

 大学卒業後の1990(平成2)年から約10年間ハワイに滞在し、真宗大谷派のハワイ開教区でヒロ東本願寺住職を務めた。現地ではチャプレンの養成講座を受けた。
 帰国後、高齢者施設での勤務を経て、2017(平成29)年4月から京都市伏見区の稲荷山武田病院で常勤している。主に終末期の患者から話を聞き、死別後に遺族と会うこともある。

 ある女性患者は、長い闘病生活で重い病気が治ったものの、結婚後に再発し、入院してきた。夫婦で子育て世代の多い新築マンションに移り住んだというが、親子連れの姿を見ると泣き崩れていた。

 別の患者は末期がんで、里子である長女が夫と娘の面倒を見ながら、見舞いに訪れていた。長女は患者のいないところでずっと泣いていた。安芸門徒のご家庭でありながら真宗の教えに触れてこなかったのだが、入院後、患者は初めて教えに接し、家族に感謝しながら亡くなっていった。

 亡くなった後も、思いが心に存続する。そんな様子を、現場で見てきた。

念仏で救われる
宮崎幸枝氏 (みやざきホスピタル副院長)

宮崎氏
宮崎氏

 私が副院長を務めるみやざきホスピタル(茨城県稲敷市)は精神科病院で、1992(平成4)年から「ビハーラの会」を院内につくり、仏教の聴聞の場を開いてきた。翌93年には機関誌に当たる『ようこそ』を創刊し、幸せや救いを軸に情報発信に取り組んできた。

 ビハーラの会の発会以前は、特に浄土真宗の教えを紹介するために聴聞の場を開いていたが、患者たちは警戒していた。ビハーラという単語を聞いて「これはいい」と思い、すぐに取り入れた。仏教聴聞の場であることには違いはなかったが、真宗への関心が高まり、すぐに受け入れられた。

 夫の実家は曹洞宗の檀信徒。夫の親戚からは「変わり者」とのレッテルを貼られ、会の廃止を求められてきたが、長年の活動のかいあって、夫も浄土真宗に宗旨替えした。

 病院では現在、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)=用語解説=を行っている。どんな現場でも、患者は救いを求めている。念仏を唱えれば救われる。そう確信して、今まで取り組んできた。

すぐ近くにある教え
和田奈緒子氏 (合志第一病院医師)

和田氏
和田氏

 熊本県合志市の病院で緩和ケア病棟に勤務している。熊本では早い段階で緩和ケアに取り組んできた病院で、異動して7年となった。医者になりたての頃は治る患者を担当し、だんだん治らない患者に目が向かった。治すことのできない患者が、最期に感謝しながら亡くなっていく。死んで終わりではないのだと感じ、これまで関わりのなかった宗教について思いを巡らすようになった。

 ちょうどそのころ、キリスト教系の病院に入るチャプレンの話を聞き、2017(平成29)年に武蔵野大学で開講されている臨床宗教師=用語解説=臨床傾聴士=用語解説=の養成講座に参加。2期生として修了した。翌年には、ビハーラ医療団の研修会に参加し、私が興味を持つもっと前から医療と仏教の協働に取り組む人々がいたことに感銘を受けた。

 田畑正久氏に本願寺派の僧侶を紹介され、聞法の場に赴いた。すると、私の勤務先から徒歩2分。そこにたどり着くまで1年間熊本―東京間を行き来したが、真宗の教えはすぐ近くにある。

【用語解説】ビハーラ活動(宗教全般)

 医療・福祉と協働し、人々の苦悩を和らげる仏教徒の活動。生老病死の苦しみや悲しみに寄り添い、全人的なケアを目指す。ビハーラはサンスクリット語で「僧院」「身心の安らぎ」「休息の場所」などの意味。

【用語解説】チャプレン(宗教全般)

 主にキリスト教で、教会以外の施設・団体で心のケアに当たる聖職者。仏教僧侶などほかの宗教者にも使われる。日本では主に病院で活動しており、海外には学校や軍隊などで働く聖職者もいる。

【用語解説】アドバンス・ケア・プランニング(ACP)

 主に終末期医療において希望する治療やケアを受けるために、本人と家族、医療従事者らが事前に話し合って方針を共有すること。過度な延命治療を疑問視する声から考案された。「人生会議」の愛称で知られる。

【用語解説】臨床宗教師(りんしょうしゅうきょうし=宗教全般)

 被災者やがん患者らの悲嘆を和らげる宗教者の専門職。布教や勧誘を行わず傾聴を通じて相手の気持ちに寄り添う。2012年に東北大学大学院で養成が始まり、18年に一般社団法人日本臨床宗教師会の認定資格になった。認定者数は23年5月現在で212人。

【用語解説】臨床傾聴士(りんしょうけいちょうし)

 傾聴を通じてグリーフ(悲嘆)やスピリチュアルペインに寄り添う専門職で、上智大学グリーフケア研究所が認定する独自資格。龍谷大学や武蔵野大学などにも養成プログラムがある。宗教者である臨床宗教師に対し、一般のケア実践者が認定される。

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