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視覚障害者に本の楽しさを 音訳図書づくり30年

2023年11月24日

※文化時報2023年10月10日号の掲載記事です。

 日蓮宗涼池院(島根県出雲市)寺庭の米田久美子さん(66)は、視覚障害者向けの音訳図書づくりに約30年間励んできた。「視覚障害者や読書が困難な高齢者に向けて本の楽しさを知ってもらうのは大きな意義がある」と話し、現在は日蓮聖人を身延山に招いた波木井実長の生涯を描く『風の峯』(石川教張著)の音訳に取り組んでいる。原動力となっているのが、日蓮聖人の教えを届けたいという熱い思いだ。(山根陽一)

 音訳図書は、書籍の文字を音声に変換した図書のこと。音訳者は文章を読み上げて録音する。完成までには読み間違いや抑揚の確認、修正作業などが必要なため、莫大(ばくだい)な時間がかかる。読み方が分からず録音を止めて調べる作業も多く、忍耐と集中力を要する。

 朗読とは異なり、感情移入し過ぎてもいけない。聞き手はフラットな気持ちで作品に接することが前提だ。一方で、人工知能(AI)のような機械的な音声では聞き手の心に響かず、「その加減が難しい」と米田さんは語る。

(画像・アイキャッチ兼用:音訳作業に取り組む米田さん)
音訳作業に取り組む米田さん

 米田さんは、視覚障害者を支援するライトハウスライブラリー(松江市)の音訳ボランティアとして、約30年間従事してきた。これまでに『国僧日蓮』(童門冬二著)や『女人法華』(石川教張著)など日蓮宗に関連する小説や、ノンフィクションの『母さん、ごめん。 50代独身男の介護奮闘記』(松浦晋也著)など、数多くの音訳を手がけてきた。

 仕事が忙しく、音訳の時間が取れない時期も多かったが、ここまで続けて来られたのは、米田宣雄(せんゆう)・連紹寺(れんじょうじ)(出雲市)前住職の励ましや助言があったからだという。

法華経を全ての人に

 米田さんは20代前半で連紹寺に嫁ぎ、坊守として忙しい日々を送っていた。

 同寺は出雲市の中心部に位置し、境内は豊かな緑に覆われ野鳥が多い。夏祭りや海外留学生の受け入れ、ボーイスカウトへの協力など多様な社会活動を実践してきた。そうした中、視覚障害者にも法華経や日蓮聖人の教えを説いた作品に親しんでほしいと願い、音訳図書のボランティアを始めた。

 内容を深く理解するため、宣雄前住職のサポートを受けながら励んできた。2020年10月に宣雄前住職は亡くなったが、米田さんは音訳を続けた。「音訳図書の意義を理解し、全ての人に日蓮聖人の教えを届けたいという彼の遺志を継ぎたかった」という。

 現在は連紹寺にほど近い涼池院に移り、午前中は作業に集中している。

来たれボランティア

 音訳図書は点訳図書とともに視覚障害者を支援する施設などに置かれ、貸し出しも行われている。ただ、商業的には成立せず、制作はもっぱらボランティアに頼っているのが現状だ。

(画像:ライトハウスライブラリーは音訳ボランティアなどを募集している(ホームページより))
ライトハウスライブラリーは音訳ボランティアなどを募集している(ホームページより)

 視覚障害者だけでなく、読書が難しくなった高齢者らにも需要はあるはずだが、蔵書数はまだまだ少ない。ライトハウスライブラリーには音訳80人、点訳約140人がボランティア登録しているが、人手は不足しているという。

 米田さんは「日蓮聖人の教えは、どんな人にとっても今を充実して生きるヒントになるはず。耳で聴く教えをぜひ知ってほしい」と話し、「ボランティアは同じ思いでつながり、金銭とは関係のない強い絆が生まれる。音訳図書づくりに興味のある方には、ぜひ仲間になってほしい」と呼び掛けている。

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