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「文化時報」コラム

〈73〉法話への期待

2024年5月2日

※文化時報2024年1月30日号の掲載記事です。

 「まちの保健室=用語解説=で法話をしてくださいよ」と看護師から頼まれた時は、正直言って嫌だった。あかんのん安住荘(大阪市平野区)で月に1回開催されるまちの保健室は、看護師に健康チェックをしてもらい健康相談をする場である。それを目的で集まる地域住民の前で法話をするのは、気が進まなかった。

 当日「ちゃんと袈裟(けさ)をかけてくださいよ」と看護師から言われた。普段着の作務衣(さむえ)ではダメなようだ。作務衣の上から間衣を羽織り、輪袈裟をつけた。その姿で血圧測定をしてもらった。2~3人の看護師がスマホを構える。法衣が珍しいのであろう。

 いよいよ法話の時間がやってきた。四門出遊の伝説から「仏教は、思い通りにならない老病死の苦が自分の問題となった時から始まるのです」と話し始めた。

 集まった地域住民は、大阪市天王寺区にある四天王寺さんを身近に感じている人が多い。「日本に仏教が伝来したときに、仏教推しの蘇我氏と反対する物部氏が戦争になったのです。蘇我氏側の必勝祈願を聖徳太子が四天王にしたんですね。それが今も残る四天王寺さんというわけです」。この話を70代から90代の高齢者にした。

 筆者からすれば、小学生でも知っている話だと叱られるようで、内心ドキドキしていた。しかし高齢者の反応は「初めて聞いた」というものだった。それどころか「菩提(ぼだい)寺の住職は何も教えてくれん。今日は仏教の話を聞けて良かった」と感想を言う人がいた。

 がんを患い闘病中という男性が質問してきた。「ワシの病気は因果応報か?」と。それにはこう答えた。

 「お釈迦(しゃか)様は結果には必ず原因があるとおっしゃいました。その本当の原因を突き止めるためにとことん観察をなさいました。だから阿含(あごん)経には大医王と記されています。現在の医学では病気の本当の原因を突き止められないかもしれません。だからと言って『バチが当たった』などと考えるのは間違っていると思います」

 のちに看護師たちが「病気はバチが当たったのではないとお坊さんが言うと説得力が違う」と感想を言ってくれた。

【用語解説】まちの保健室

学校の保健室のように、地域住民が健康などさまざまな問題を気軽に相談できる場所。図書館や公民館、ショッピングモールなどに定期的に設けられ、看護師らによる健康チェックや情報提供が行われる。病気の予防や健康の増進を目的に、日本看護協会が2001(平成13)年度から展開している。

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