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⑲老人ホームで安心届ける 真言宗智山派薬王寺

2023年12月22日

※文化時報2023年7月4日号の掲載記事です。

 栃木県鹿沼市の真言宗智山派薬王寺(倉松俊弘住職)の境内にある住宅型有料老人ホーム「瑠璃の里」が開設されたのは、2017(平成29)年11月のこと。薬王寺は土地を貸しつつ、ホームの建設・運営を担う専門業者に、仏教に根差した事業を行ってもらっている。「生きている間から安心を届けるのが、お寺の役割」。そうした倉松住職の思いが、老人ホームと介護事業にたくさん盛り込まれている。

(画像①:薬王寺のお堂)
薬王寺のお堂

 薬王寺の境内は2千坪(約6600平方メートル)と広大で、その一角にある「瑠璃の里」は鉄骨造3階建て。個室30室があり、訪問看護・訪問介護・居宅介護支援事業所とデイサービスセンター、療養通所介護施設を併設している。

 倉松住職は、これらの施設を開設した背景にある思いを「お寺の役割は葬式・供養だけではない。仏教本来の在り方は、亡くなってからではなく、亡くなる前から関わり、生きている間から人々に安心を届けることだ」と語る。

 生きている間に、お寺に何ができるのか。出した答えが、老人ホームや介護事業だった。「介護や医療、看護の関係者が見られるのは、身体的なことにとどまる。人が与えられた生命を全うするには、心の安心が欠かせない」と考えたという。

敷地を貸し、顧問に

 倉松住職が老人ホームと介護事業に乗り出すに当たり、慎重に検討したのが事業の運営形態だった。

 「社会福祉法人や株式会社をつくって、住職が代表者や役員になるのでは、お寺との〝二足のわらじ〟となり時間的に難しい。また、施設まで建設して事業者に貸す方法はリスクが大きく、もし失敗すれば700軒近い檀家に迷惑がかかる」
 

 (画像②:境内に整備された住宅型有料老人ホーム「瑠璃の里」)
境内に整備された住宅型有料老人ホーム「瑠璃の里」

 そこで、薬王寺は敷地を貸すだけにして、施設の建設・運営は専門業者に委ねることにした。

 栃木県下で多数の調剤薬局と高齢者向け福祉事業を展開する薬剤師の友人に相談。友人は倉松住職の考えに共鳴し、施設の建設・運営はその友人が経営する株式会社が請け負うことになった。同時に、「心の安心を届けるのがお寺の役割」という倉松住職の思いを、事業に盛り込んでくれることになった。

 そこで、倉松住職は株式会社の顧問となり、心の安心を届けることを具現化する役割を担うことで話がまとまった。

ホーム内に仏間設ける

 心の安心を届けるための設備として、瑠璃の里1階の玄関近くに仏間を設けた。ここには薬王寺本尊の薬師瑠璃光如来が置かれ、希望する施設利用者はいつでも手を合わせたり、瞑想(めいそう)したりできる。

(画像③:仏間に安置された薬師瑠璃光如来)
仏間に安置された薬師瑠璃光如来

 利用者が亡くなった時には、希望に応じて、ホームのスタッフや利用者が故人を送る「お別れ会」を仏間で実施している。希望する遺族は約8割に上り、大島淳副施設長は「『ここまでしてもらえるとは思っていなかった』『お世話になったスタッフや仲の良かった利用者ときちんとお別れできて良かった』と感謝する遺族が多い」と語る。

 施設内で仏教行事も行っている。2月15日には、倉松住職が涅槃(ねはん)図の絵解きをして、お釈迦様の生涯について法話。4月には花まつりを行い、倉松住職がお寺から誕生仏を持ってきて、皆で甘茶かけを楽しむ。

 これらの行事はコロナ禍では開催を見合わせたが、倉松住職が自らフルートの演奏を披露した後で法話を行うなど、年に数回、不定期ながらも仏教に親しむ機会は設けてきた。日ごろから可能な限り施設に顔を出して利用者に声をかけ、会話するよう心掛けているという。

(画像④:バイオリニストと共演しフルートを吹くことも)
バイオリニストと共演しフルートを吹くことも

菩提寺が心のケアを

 倉松住職には、施設を開設する前からぜひ実現したいと思っている構想がある。老人ホームやデイサービスに、利用者の菩提寺のお坊さんを呼ぶカウンセリングサービスだ。

 背景には、老人ホームに入居できるのは、要介護度による基準などから、檀家を優先的に入居させられないという事情がある。老人ホームの定員30人のうち、檀家は4~5人で、檀家以外の利用者の方がはるかに多くなっているのだ。

(画像⑤アイキャッチ兼用:老人ホームの利用者と歓談する倉松住職)
老人ホームの利用者と歓談する倉松住職

 そこで倉松住職は、「利用者本人や家族が心に不安を抱えた時、話を聞いてほしい時、私や見知らぬカウンセラーよりも、親しい菩提(ぼだい)寺の住職の方が安心できるはず」と考え、他の菩提寺にも協力してもらいたいのだという。

 先進的な構想だが、開設から約6年たった現在もまだ実現していない。コロナ禍が影響していることはもちろんあるが、他にも要因がある。

 実現するためにはまず、利用者に「菩提寺の住職に、こういう案内をしてもいいか」と尋ね、承諾を得なければならない。そして、菩提寺の住職にも「檀家が入所しているので、面会に来てください」と頼まなければならない。そこまでのことをする余力が、まだないのだという。

 こうしたことは、スタッフの意識改革や工夫によって実現する余地は十分にある。

 倉松住職は「私が老人ホームを作って一番行いたかったことなので、時間がかかってもぜひ実現したい」と、意欲を燃やしている。

(画像⑥:表)

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