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聞こえない子に伝えたい『おそうしきのえほん』

2023年12月28日

※文化時報2023年11月24日号の掲載記事です。

 真言宗智山派仙蔵寺(東京都台東区)の青龍寺空芳(しょうりゅうじ・くうほう)住職(33)が、手話通訳士のほとりさんと共に聴覚障害のある子ども向けの絵本『おとなといっしょによむ おそうしきのえほん』を制作し、7日刊行された。葬式のマナーや知識を教えるのとは異なり、「死」や「別れ」を絵とやさしい言葉で表現した今までにない絵本。青龍寺住職は「故人が仏様に導かれ、残された私たちが気持ちの区切りをつける意味を考えるきっかけになってほしい」と語る。(山根陽一)

『おとなといっしょによむ おそうしきのえほん』(販売元:おそうしきのえほんを作ろうプロジェクト 監修:仏教情報センター 700円
『おとなといっしょによむ おそうしきのえほん』(販売元:おそうしきのえほんを作ろうプロジェクト 監修:仏教情報センター 700円

 仏教テレフォン相談などを超宗派で実施する一般社団法人仏教情報センター(東京都文京区)が監修。設立40周年記念大会で配布した。

 聴覚障害のある子は耳からの情報がないため、弔いの際に周囲で起きていることを理解できず、葬式の意味を分かっていないケースが多いという。

 絵本は、難聴の子どもを持つ母親の「せめておじいちゃんが死んだってわかってほしい」との言葉から始まる。

 葬式の流れや死の意味、遺族の気持ち、別れの時間の過ごし方、焼香、服装や持ち物などを、子ども向けのイラストや手話、平易な文章で表現している。

分かりやすいイラストや手話で葬式を説明している
分かりやすいイラストや手話で葬式を説明している

 聴覚障害のある子の教育に活用される絵カードや手順表にも近いつくりとなっており、青龍寺住職は「聞こえない子、聞こえにくい子に大人が寄り添って、一緒に見てほしい」と話す。

長男の障害きっかけに

 青龍寺住職がこの本を企画したのは、現在6歳の長男に聴覚障害があることに由来する。2歳になっても発語しなかったため病院に連れて行くと、実は聞こえていなかったことが分かった。その後、青龍寺住職は長男とろう学校に通って手話を習い、ほとりさんと出会った。

 ほとりさんは浄土真宗東本願寺派立雲寺(東京都八王子市)の生まれで、本名は石川阿。僧侶ではないが仏教に詳しく、言語聴覚士の資格を持つ。聴覚障害のある子と家族の支援をフリーランスで行い、現在は英国で盲ろう研究者のアシスタント職に就いている。

 コロナ禍で青龍寺住職が法話のオンライン配信を始めたとき、ほとりさんに手話通訳を頼んだことから、交流が深まった。そこで課題になったのが、仏教を手話で伝える難しさだった。

東京都台東区の仙蔵寺
東京都台東区の仙蔵寺

 用語が難しく、特に葬式は宗派によってしきたりや作法が異なることから、子どもに分からせるのはなお厳しい。そうして、絵を多用する手法を思いついた。

 絵も描けるほとりさんがイラストを担当。青龍寺住職が宗派に偏らない普遍的な儀式の手順を考案した。「人が死ぬとはどういうことか。死んだときはどんな気持ちになるか。その後に私たちはどう生きるか。この根源的な問いを、子どもにも考えてほしい」と、絵本にすることを決めた。

手話での法話目指す

 青龍寺住職は威徳院(栃木県大田原市)の長男として生まれ育った。専修大学に進学し僧侶になるつもりはなかったが、就職を控えて住職を務める父や祖父の姿を見ると「やはり自分も」という気持ちが芽生え、智山専修学院に入学。仏門で生きる決断をした。2016(平成28)年に25歳の若さで住職に就任。今では法務の傍ら、聴覚障害のある人々への支援を充実させるべく、手話通訳者になることを目指して勉強している。

 「障害はその人の個性といわれる時代。障害のある人たちとコミュニケーションを取ることは、自分の幅を広げることにつながる」と話し、「手話は大学で学ぶ第二外国語のようなもの。自ら手話をしながら法話ができる僧侶を目指したい」と意気込みを語った。

 

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