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寺社と連携「共生」提唱 日本在宅ケア学会

2024年1月9日

※文化時報2023年11月28日号の掲載記事です。

 在宅医療に携わる医療・福祉職や教育関係者らでつくる日本在宅ケア学会の第28回学術集会「ともいき 共に生きる―在宅ケアにおけるSDGsへのアプローチ」が11、12の両日、大阪大学(大阪府吹田市)で開催された。寺社との連携を呼び掛ける講演や、同学会では初となる宗教をテーマにした公開シンポジウムが開かれ、会員らは寺社の新たな可能性について考えを深めた。

 初日は学会長の大阪大学大学院医学系研究科の小西かおる教授が「ともいき社会を目指して」と題して講演。自身が専門とする難病ケアを「療養者が自分を受け入れ、生きることを諦めずに最後まで生き抜くこと」と定義した上で、安全性を保障しながら多職種が試行錯誤し、その人生に関わっていくと紹介した。

 また、難病など困難を抱えた人を支える地域共生社会「ともいき社会」を提唱し、寺社とつながることの重要性を訴えた。

 シンポジウム「まちの元気をプロデュースするお寺の可能性」では、大阪大学大学院の稲場圭信教授、浄土宗願生寺(大阪市住吉区)の大河内大博住職、さっとさんが願生寺訪問看護ステーション=用語解説=の吉田厚子氏、浄土宗金剛寺(京都市東山区)の中村徹信住職が登壇。それぞれの取り組みを紹介し、お寺が持つ特徴とポテンシャルを伝えた。

シンポジウムの登壇者と小西教授(左から2人目)
シンポジウムの登壇者と小西教授(左から2人目)

 フロアからは「自分の価値観と全く合わない人や死後を信じていない人に、どう向き合っているのか」という質問があり、大河内住職は「自分ができることには限界があるかもしれないが、誰かがこの人につながれるかもしれない。それを諦めないようにしている」と答えた。

 小西教授は文化時報の取材に「難病の人も、最初は近づきがたいが近づいてしまうと平気。お寺にも、もっと気軽に行けたらいい。お寺が持つ環境が力になると思う」と指摘。「来年に鎌倉で行われる次回大会でもお寺の人が講演してくださる。そういう意味で、バトンを渡せたと感じている」と話した。

 公開シンポジウムでの発言要旨は以下の通り。

防災は新たな縁づくり
大阪大学大学院教授 稲場 圭信 氏

稲場圭信氏
稲場圭信氏

 共生社会の醸成には、社会や地域における人々の結びつきであるソーシャルキャピタル=用語解説=が必要だ。そこで、「宗教×防災×子ども食堂=用語解説=」というつながりを伝えたい。

 東日本大震災のとき、普段からボーイスカウトなどで子どもが集まる場所になっていたお寺には、外国から有志による物資が届いたり、多くの人々が避難したりした。普段から人の集まる場にすれば、防災や地域の場づくりにつながる。

 宗教施設は全国に約18万カ所で、小学校は約2万カ所。この数の差からも、宗教施設の伸びしろは大きいといえるのではないか。

 寺社で開かれている子ども食堂は現在200カ所ほどある。防災の取り組みは、日常の新たな縁づくりだといえるだろう。

さっとさんがを地域に
浄土宗願生寺住職 大河内 大博 氏

大河内大博氏
大河内大博氏

 2001(平成13)年から病床訪問を始め、臨床スピリチュアルケアカウンセラーなども経験してきた。社会もお寺も大変な状況になり、お寺がなくなることは地域の分解につながると思った。

 貢献できることはないかと考え、20年に「さっとさんが願生寺訪問看護ステーション」を立ち上げた。さっとさんがは、サンスクリット語で「よいつながり」の意味。21年5月、緊急事態宣言の発令中には居場所づくりも始めた。

 自坊がある大阪市住吉区は、地域のつながりがまだ深い。寺子屋や子ども食堂、障害のある親子らが語り合う「親あるあいだの語らいカフェ」などを開催し、地元の中学生もボランティアに訪れる。現在は福祉避難所づくりにも取り組んでいる。

線で捉えた看護を
さっとさんが願生寺・訪問看護ステーション 吉田 厚子 氏

吉田厚子氏
吉田厚子氏

 さっとさんが願生寺訪問看護ステーションは、大阪大学の看護学生らの実習先にもなっていて縁がある。私からは、看仏連携について紹介したい。

 私は訪問看護師をしているが、この仕事は孤独。「この対応でよかったのかな」といつも振り返る。40年看護をしていても、スキルだけでは利用者の人生・苦痛に寄り添うのに限界がある。

 利用者の生老病死の思いを知ることは大事だと思う。培われてきた思いや人生を知り、生きてきた人生に敬意を払うことが大切だ。そのことから、利用者に対して私はまず「どんな人生を送ってこられましたか」と聞くようにしている。現在の利用者を点で評価せず、人生も含めた線として捉え、その先を考えた看護を心掛けている。

多チャンネル目指す
浄土宗金剛寺住職 中村 徹信 氏

中村徹信氏
中村徹信氏

 『梵網経』という古いお経に「不看病戒」という言葉がある。これは、病気や障害の人がいれば、誰であろうと仏に対するのと同じように接さなければ罪に当たることを表している。

 私はお寺の出身ではなく、以前は営業職として働いていた。43歳のとき、急性くも膜下出血で倒れたことで、命が無常であることに気付き仏道を志した。20年余り住職が不在だったため、古い慣習にとらわれず運営できていると感じている。

 19年から始めた介護者カフェ=用語解説=も、今月で18回目を迎えた。他にもヨガ教室やお寺マルシェ、三味線教室なども開催している。自分には突出した専門分野はないが、今後もさまざまな人とコラボレーションして多チャンネルな活動を目指したい。

【用語解説】訪問看護ステーション

 患者の住み慣れた自宅や施設などで医療を提供し、生活支援を行う事業所。看護師や保健師、介護福祉士などが所属し、外部の医療・介護従事者とも連携する。

【用語解説】ソーシャルキャピタル(社会関係資本)

 「信頼」「規範」「ネットワーク」を公共の財産と見なす概念。蓄積されれば、人々の協調行動が活発になり、社会の効率性を高められるほか、経済や幸福感などにいい影響を与えるとされる。米国の政治学者、ロバート・パットナム氏らが提唱した。

【用語解説】子ども食堂

 子どもが一人で行ける無料または低額の食堂。困窮家庭やひとり親世帯を支援する活動として始まり、居場所づくりや学習支援、地域コミュニティーを形成する取り組みとしても注目される。認定NPO法人「全国こども食堂支援センター・むすびえ」の2022年の調査では、全国に少なくとも7363カ所あり、宗教施設も開設している。

【用語解説】介護者カフェ

 在宅介護の介護者(ケアラー)らが集まり、悩みや疑問を自由に語り合うことで、分かち合いや情報交換をする場。「ケアラーズカフェ」とも呼ばれる。主にNPO法人や自治体などが行っているが、浄土宗もお寺での開催に取り組んでいる。孤立を防ぐ活動として注目される。

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