2024年1月11日 | 2024年7月8日更新
※文化時報2023年11月21日号の掲載記事です。
子ども食堂=用語解説=の支援活動を行う認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ(湯浅誠理事長、東京都渋谷区)は9日、浄土宗大本山増上寺(東京都港区)でセミナー「宗教施設におけるこども食堂と防災」を開いた。宗教法人が運営主体となった子ども食堂が全国で約200カ所あることを明らかにした上で、活動の意義や地域連携を説く関係者らが登壇。聴講した宗教者ら約60人に向けて「子ども食堂こそ現代の救い」と提言した。(山根陽一)
社会活動家として貧困問題に取り組み、内閣府参与などを歴任した湯浅理事長は、2016(平成28)年ごろから子ども食堂の増加に着目。「多くの子どもや大人と関わることで、人生の選択肢が広がる。貧困であってもなくても、子どもに多様な経験と価値観を与える場をつくりたい」との思いで、18年にむすびえを設立した。
講演では、お寺で行われている子ども食堂の紹介動画を見ながら、『夢をかなえるゾウ』シリーズ(文響社)など自己啓発書を多く発表している作家の水野敬也氏を迎え、湯浅理事長とむすびえ総務の六鹿篤美氏が語り合った。
水野氏は、父親として子ども食堂で活動した経験に触れ「お寺の取り組みにはうさんくささがなく、お金では買えない感動を与えてくれる。こうした日々の活動が説得力を生み、支持される」と指摘。湯浅理事長は「お寺の方々は『当たり前のことをやり、おせっかいを焼いているだけ』と謙虚な姿勢で取り組んでいる」と答えた。
六鹿氏は学生時代に大阪市西成区で貧困層の支援活動に従事した経験を語り「本当に困った人は『助けて』と言えない。子ども食堂は、そんな人の居場所になる可能性がある」と語った。
続いて、湯浅理事長と高校の同窓生の大阪大学大学院の稲場圭信教授(宗教社会学)が「宗教施設における防災の取り組み」をテーマに講演。災害時の指定避難所や指定緊急避難場所として活用される宗教施設が年々増え続けており、今年5月現在で4422カ所に上っていると解説した。
その上で「災害時と平常時を連動させるため、子ども食堂と組み合わせた子どもや高齢者の見守り活動が必要」と提唱した。
また、宗教者は奥ゆかしく多くを語らない特徴があるとして、「今後は積極的な情報発信も大切」と語った。
パネルディスカッションでは稲場教授、一般社団法人ソーシャルテンプル副代表理事の渡辺光順・浄土宗功徳院(山梨県甲斐市)住職、NPO法人こども食堂わかやま理事長の岡定紀・天理教紀ノ川分教会(和歌山市)教会長が意見交換した。
渡辺住職は社会活動の第一歩が子ども食堂だったとした上で「多くのお寺は駐車スペースが広く、畳の部屋がある。農家などから食料の提供もある」と、継続しやすい理由を話した。
岡教会長は16年の熊本地震で一人暮らしの高齢者や貧困家庭の子どもの実態を知り、子ども食堂を始めたという経緯を説明した。「宗教施設は誰かが必ずいる。泣きながら駆け込んで来る人にも対応できる。そうした日常のつながりが重要で、災害時にも頼ってもらえる」と語った。また、2人とも「活動は超宗教・宗派なので布教活動は行わない」と口をそろえた。
稲場教授は宗教者のマンパワーやネットワークは他に類を見ないとした上で「子どもが防災でできることを考えて発案すれば、大人にも影響を与えるし、地域活性化につながる」と強調した。
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むすびえは「こども食堂地域防災拠点化プロジェクト」を実施し、ワークショップの開催や防災マニュアルを開発すると同時に支援者を募集している。問い合わせはメール(bousai@musubie.org)で。
【用語解説】子ども食堂
子どもが一人で行ける無料または低額の食堂。困窮家庭やひとり親世帯を支援する活動として始まり、居場所づくりや学習支援、地域コミュニティーを形成する取り組みとしても注目される。認定NPO法人「全国こども食堂支援センター・むすびえ」の2022年の調査では、全国に少なくとも7363カ所あり、宗教施設も開設している。