2024年11月14日
※文化時報2024年9月13日号の掲載記事です。
不登校の児童生徒の居場所となっている京町家がある。京都市上京区の「こりす西陣」。運営するのは、自身も不登校の経験を持つ上岡真理さん(28)だ。普段は子どもたちが自由に過ごせる場所にしてあり、子ども食堂=用語解説=の「ひとえつぎ食堂」も月2回開く。同じく子ども食堂を運営する天理教甲京分教会(同区)の辻真一教会長と連携したイベントも開き、子どもたちが多様な大人と出会う機会をつくろうとしている。(大橋学修)
8月25日午後4時半。猛暑の中、上岡さんが顔を紅潮させながら「こりす西陣」にやって来た。仕入れた食材をテーブルに置くと、室内を子ども食堂向けにしつらえていく。
キッチンの壁には、当日出す料理のレシピが張られている。「実は、あまり料理が得意ではないのですよ」と苦笑いした。
午後6時半になると、子どもを2人連れた母親がやってきた。子どもたちが野菜の盛り付けなど食事の準備を手伝い、母親はテーブルで書類にペンを走らせる。多忙なため、いつも子ども食堂の時間に事務作業をしているのだという。
料理は毎回、食育を意識してテーマを決めている。この日は「油」。ごま油と鶏がらスープをあえたそうめん、サラダ油を使った炒め物2品、オリーブオイルを使ったサラダ、油揚げのみそ汁を用意した。食事の前には、上岡さんがクイズを交えながら、テーマを説明するのが定番になっている。
子どもはボランティアスタッフと話しながら食事し、母親たちは別のテーブルで雑談する。54歳の母親は「うちの子どもは人とのコミュニケーションが苦手。多くの大人と出会い、いろいろな考えを知ることができる」と話し、1歳の子の母親でもある上岡さんは「私も運営者でありながら、先輩ママの話が聞ける」と笑った。
上岡さんが「こりす西陣」をオープンしたのは2018(平成30)年7月。滋賀大学経済学部に在学中の時だった。不登校の子どもに「無理に学校に行かなくてもいいよ」と言いながら学ぶ機会を奪い、学校卒業後に支援する人が誰もいない状況を危惧していた。
京町家を1棟借り上げ、玄関を上がってすぐの部屋には地域にゆかりのある人が作った手づくり雑貨の販売スペースを設けた。その奥の居間がゲームをしたり本を読んだりして、自由に過ごせるフリースペース。2階は、ビジネスマンが利用するコワーキングスペースにしている。
利用料は大人500円、高校生以下200円。8月と9月は子どもは無料で、それ以外の月も中学生以下はお手伝いすることで無料になる。そうやって、子どもたちが、いや応なく地域の人々と関わる機会をつくっている。上岡さんは「家族とは異なり、良くも悪くも自分中心でない関係ができる。それが、困ったときに助けてもらうことにもなる」と説明する。
今後は、不登校の子どもが学ぶ機会を得にくい性教育やネットリテラシーの教育、職業体験などを行いたいと考えている。「ほどよい距離感で関わることが大切。何かしらの形で社会につながれるようにできれば」。そう意欲を語った。
【用語解説】子ども食堂
子どもが一人で行ける無料または低額の食堂。困窮家庭やひとり親世帯を支援する活動として始まり、居場所づくりや学習支援、地域コミュニティーを形成する取り組みとしても注目される。認定NPO法人「全国こども食堂支援センター・むすびえ」の2023年の調査では、全国に少なくとも9132カ所あり、宗教施設も開設している。