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福祉仏教ピックアップ

傾聴キッチンカー走る 住職一家のご縁結び

2024年11月20日

※文化時報2024年9月13日号の掲載記事です。

 高野山真言宗福性寺(京都府福知山市)の桐村正昭住職一家が営むキッチンカー「taiyou & tsuki」が、京都府北部で人気を呼んでいる。レトロな雰囲気の車体を走らせ、寺ならではの精進料理風ハンバーガーや無添加ソフトクリームなどを提供。食の重要さと食材への感謝、人とのつながりの大切さを伝えている。(佐々木雄嵩)

つながり求め外へ

 キッチンカーを思い立ったのは、2020年の夏だった。コロナ禍で参拝者が減少。集落の檀信徒も外出をためらい、孤立や不安を抱えているのではないかと感じた桐村住職は「お寺で待つのではなく、お坊さんが外に出て行って話をするきっかけをつくろう」と行動を開始した。

 初めはリヤカーを引いて歩き、いれ立てコーヒーの提供などを思案していたが、縁あって、病気でキッチンカーでの商売を諦めた香川県出身の男性と出会った。

 「夢を引き継いでくれるなら」とワーゲンバスを改造したキッチンカーを譲ってもらい、その後、食品衛生管理者の免許を取得。21年6月に移動販売を開始した。

(画像1アイキャッチ兼用:ワーゲンバスを改造したキッチンカー(桐村住職提供、画像を一部処理しています))
ワーゲンバスを改造したキッチンカー(桐村住職提供、画像を一部処理しています)

 「香川県は弘法大師空海の出身地。不思議なご縁と後押しを感じた」と桐村住職は振り返る。店名は福性寺の本尊である薬師如来像の脇侍=用語解説=、日光菩薩と月光菩薩にちなんだ。

おいしさと抜群のセンス

 一押しメニューは、幅広い層に精進料理を親しんでもらおうと考えた「精進バーガー」。国産小麦を使用したバンズに、季節の根菜類をすったパテと高野豆腐、地元の有機野菜をたっぷり挟む。若い層には、焼き肉と野菜をあふれんばかりに詰めた「煩悩バーガー」が人気だ。

 米粉と生乳を使用した無添加ソフトクリームは自然な甘さが売りで、老若男女がこぞって買い求めている。コーンはグルテンフリーで、桐村住職が一枚ずつ丁寧に手焼きする。

 「無添加で体にやさしい料理を提供したい。多くの人と食のありがたみを分かち合いたい」と、素材にこだわる住職夫婦。アレルギーでソフトクリームを食べることができなかった子どもが喜々としてかぶりつき、感激している親御さんの姿が忘れられないという。

(画像2:キッチンカーへの思いを語る桐村住職)
キッチンカーへの思いを語る桐村住職

 料理のおいしさやユニークなネーミングセンス、なにより僧侶自らが腕をふるう珍しさから、口コミで人気が広がり、数珠つなぎでさまざまなイベント会場や店先などに招待されるようになった。桐村住職は「『法務の傍ら細々と』のつもりが、今ではお寺そっちのけ」と破顔した。

被災地回って「実践」

 キッチンカーを手伝うのは、妻で副住職の郁子さんと中学1年の次女・花子さん。花子さんにとっては、さまざまな人々への接客を通じ、出会いから学びを得られる貴重な機会となっている。法務や家事、学業などで互いに忙しかった一家だが、一緒に活動を始めてからは会話が増えた。

(画像3:桐村住職を手伝う花子さん)
桐村住職を手伝う花子さん

 僧侶が営むキッチンカーと分かると、「実は…」と胸のつかえを打ち明け始める人も多いという。桐村住職との会話から自殺を思いとどまり、定期的に足を運んでくれるようになった人もいた。キッチンカーが縁となり、活動に興味を持つ人や参拝に訪れる人は以前より格段に増えたそうだ。

 活動は、京都府北部だけにとどまらない。6月15日にはキッチンカーで能登半島地震の被災地を回り、300食のソフトクリームを無料提供。被災者の不安に耳を傾けた。今秋に再び能登支援へ向かう計画も進行中だ。

(画像4:被災地で行ったソフトクリームの提供=石川県輪島市)
被災地で行ったソフトクリームの提供=石川県輪島市

 桐村住職は「変わった形の仏教実践。キッチンカーは寺と人をつなぐツールだが、僧侶としてすべきことに場所は関係ない。これからもご縁を大切にし、耳を傾け、手を差し伸べていきたい」と力を込めた。

【用語解説】脇侍(わきじ、きょうじ=仏教全般)

 本尊の左右両脇に付き従う菩薩などのこと。教化を補佐する。

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