2025年1月8日
※文化時報2024年10月1日号の掲載記事です。
中秋の名月の9月17日、東京都台東区の12カ寺で、子どもがお菓子をもらいながらお寺を回るスタンプラリー「お月見どろぼう」が行われた。いずれも東京都仏教連合会傘下の浅草仏教会(理事長、並木泰淳・臨済宗妙心寺派金龍寺住職)に所属する超宗派の寺院。親子連れを中心に約230人が〝日本版ハロウィーン〟を楽しんだ。(山根陽一)
秋の収穫に感謝し、お団子やススキ、おはぎなどを供える中秋の名月。この日だけは子どもがお供えを〝盗む〟ことを許すという風習が、各地に残る。子どもたちの見守りを兼ね、お菓子を軒先や縁側に置く地域もあるという。
台東区の「お月見どろぼう」は、こうした伝統を受けて昨年から始まった。各寺院は、子どもたちが訪れた時になすべき決まり事(ミッション)を設定し、クリアできたらスタンプを押してお菓子を渡す。子どもたちはお菓子とスタンプを求めて次々とお寺を巡っていく。
ミッションは各寺院の特徴を反映させたものが多く、指示の言い回しは忍者を想定して語尾に「ござる」を付けている。
例えば禅寺の金龍寺は「かんのんさまに手を合わせて3回しんこきゅうをするでござる」という具合だ。
他には、葛飾北斎の墓がある浄土宗誓教寺は「この有名な絵のパズルを完成させる」。川柳を広めた柄井(からい)川柳の墓がある天台宗龍寳寺は「柳の木にひしゃくいっぱいの水をかけてあげる」、真言宗智山派の正福院は「ご本尊さまにたいして、こころ静かにごあいさつの合掌をする」とした。
各寺院の門前にはベビーカーや子どもを乗せられる自転車が停(と)められ、親子連れや幼稚園・保育園児、小学生らが地図を片手に街じゅうを行き交った。
厳念寺には、近隣のことぶきクローバーズ保育園の保育士が訪れ、ミッションを子どもたちに説明していた。
「お月見どろぼう」を発案したのは厳念寺の菅原耀住職と坊守の菅原ちひろさん。「静岡県のお寺が単独でこうした行事をしているのを見て、複数でやったら盛り上がる」とちひろさんが思いつき、昨年3カ寺でスタート。約120人が集まった。
「もっと広げれば地域が活性化し、宗派を超えたお寺のつながりも深まる」と近隣の寺に参加を呼び掛けていったという。
菅原住職は「お寺はお菓子を300個ほど用意して、子どもたちを優しく迎え入れるだけ。ハロウィーンのようなコスプレも必要なく、参加のハードルが低い」と話す。
聴覚障害のある子ども向けの絵本『おとなといっしょによむ おそうしきのえほん』を制作した経験のある真言宗智山派仙蔵寺の青龍寺(しょうりゅうじ)空芳(くうほう)住職は、自坊で子どもたちに不動明王の言葉を教えた。合間には長男を連れて8カ寺を回ったという。
今年初めて参加した浄土宗了源寺寺庭の森下智子さんは「マンション住まいの新しい住民が、町の小さなお寺の特徴や役割を知るいい機会になる」と、子どもたちを温かく迎え入れた。病院でソーシャルワーカーとして勤務した経験があり、「障害のある子や認知症の方も迎え入れられるようになれたら、さらにすばらしい」と話す。
臨済宗妙心寺派金龍寺の並木泰淳住職は「月の満ち欠けの区切りは季節の折り目。そうした時に普段と異なる行いをすることは、新たな出会いにもつながる」と、イベントの意義を語った。