2025年3月23日
ある高齢者施設で、男性利用者が床に転倒しているところが発見されました。すかさず看護師が「頭を打っていないか」「骨折はしていないか」をチェックし、病院への搬送が必要かどうかを判断します。幸いにも意識もしっかりしており、どこにもケガは確認できませんでしたので、自室で安静にしてもらうことにしました。
ただし、これで終わりではありません。「転倒事故」ですから、スタッフは状況を細かく調べて事故報告書をまとめなくてはいけません。家族への連絡も必要です。
しかし、この事故はどうにも不思議でした。男性が倒れていたのは多くの入居者が日中過ごす食堂の中でした。多くの入居者、そして複数のスタッフの目が届く場所にもかかわらず、誰もこの男性が転倒をするところを見たり、音を聞いたりしていないのです。
立ち上がりや歩行の介助中など、転倒事故が発生しやすい場面でもありません。この男性が「いつ、どのような状況で転倒したのか」が、皆目分からないのです。
そこで、あるメーカーが「介護業界への販売を前に、実際の現場で役に立つ実証実験をしたい」と取り付けていった、セキュリティーカメラの映像を確認することにしました。そこには、自分で床に寝そべりにいった男性の姿がはっきりと写っていました。つまり、今回はそもそも事故でも何でもなかったのです。
事故だと誰かが責任を負わなくてはなりませんが、今回のように実際には事故ではなかったケースも少なくないと思われます。記録が残っていたことで、ぬれぎぬを着せられる人が出るのを防ぐことができました。
もっとも「なぜ男性が自ら床に寝そべろうと思ったのか」という理由は最後まで分からなかったそうですが…。